国見ちゃんのクラスメート | ナノ






「...そこで男性が鍵穴を覗くと赤い部屋が広がってたんだ」

「うわ!うわああああああああああ!!!」

枕に顔をうずめる。今は男子の部屋に集まって百物語(ロウソクないけど)をしている。百物語するから来ない?なんて言われて怖いもの見たさで来たけど、来るんじゃなかった。とてつもなく怖い。今日一人で寝れない。私は恐怖で体を震わせた。

「やべー、みょうじさんいるから超楽しい。こんだけ怖がってくれるとか」

「わかる。みょうじさんの悲鳴にビビるもんな」

他の一年生たちが口々に「ありがとー!」と言う。こっちはそれどころじゃないというのに!私は隣の国見くんにこっそり寄った。誰かにくっついてないとどうにかなってしまいそうだ。

「おい!就寝時間だぞ。そろそろ終わりにして寝ろ!」

岩泉さんさが1年の部屋を覗きに来て言った。1年たちは「はーい」といいお返事でいそいそと布団のなかにもぐる。

「みょうじも戻ったほうがいいよ」

まだ布団の中に入ってない国見くんが言う。私は涙目で国見くんをじっと見ると国見くんは少したじろいだ。

「...今日はここで寝ちゃだめ?」

「はあ!?」

思わず大きくなった国見くんの声にすくむ。他の一年生たちは耳聡くそれを聞いた。

「でももうスペースないぞ、詰めるか」

「それとも俺の布団で寝る?」

なんて声が聞こえる。そしたら口々に「俺ので寝なよ」と聞こえてきた。その声に思わず飛び乗ってしまいそうになる。国見くんは私を立たせてドアの方に押しやる。

「冗談じゃないし、部屋に帰りな」

「冗談じゃん、国見。詰めるから布団もってきてもらえば?」

「溝口くんにバレたらまた怒鳴られるぞ」

そう言うと一年生たちは「それもそうだな」とあっさり引き下がった。う、裏切り者!

国見くんは部屋までついてきて布団を引いてもぐるところまで見届けられた。ひどい、布団に入ったところで怖くて寝れないのは変わらないのに。私は布団の中で寒くもないのにガタガタ震えていた。

するとスマホから着信をしらせる音が鳴り響いた。

......

みょうじは「ここの部屋で寝たい」と言い出した。冗談じゃない。詰めて寝るにしても隣は壁際の俺になるだろう。みょうじに百物語の間くっつかれる(本人はこっそりやっていると信じているがバレバレだ)だけで無心でいられなかったのに、隣で寝られるだなんて俺が寝れなくなる。耳聡くそれを聞いた他の一年が「俺の布団で寝る?」なんて言い出す。もっと冗談じゃない。みょうじも嬉しそうな顔をするな。下心見え見えじゃないか。俺はみょうじを無理やり立たせて部屋から追い出した。ちゃんと女子部屋まで送って布団に入るところまで見届けたので一安心だ。

部屋に戻ると暗い中で一年生たちが囃し立てた。

「なんかいやらしいことしとでもしてきたんじゃないだろうなー」

「この一瞬で何ができるんだよ」

俺は舌打ちしそうになるのをなんとかこらえてスマホを取り出しドアに手をかける。

「どこ行くんだよ。もう就寝時間だぞ」

「ちょっと野暮用だよ」

部屋から出るとみょうじに電話を入れた。ワンコールで電話は取られた。みょうじの怯えようが目に取れる。俺は笑いそうになった。

「もしもし」

『もしもし国見くん?』

『どうしたの?』とみょうじは怯えた声で尋ねる。

「ちょっと寝れなくてさ、世間話付き合ってよ」

『え?いいけど』

なんで今なんだろうなんて声が透けて見える。しかしみょうじは電話越しにどこかホッとしているのか声が穏やかになった。

わざと退屈な話題ばかり選んで話していると10分後、スーという寝息が聞こえてきた。結構早かったなと通話を切る。もう少し話したかったと柄にもないことを思って今度は我慢せずに舌打ちした。

部屋に戻ると大半が寝ていて、お前らも寝るの早いなと思った。俺も布団に入ると疲れていたのかすぐに落ちた。

......

合宿もつつがなく終わり、帰りの新幹線に乗り込む。今度はみょうじは寝ることもなく起きていたので席を回転させ四人で持参したトランプでババ抜きをすることになった。みょうじの番になり金田一からトランプを抜く。するとみょうじは絶望の表情になった。

「(分かりやす)」

みょうじからトランプを抜こうとするとあるカードでみょうじは歓喜の表情をした。そのカードを避けて抜こうとするとみょうじは肩を落とした。

「(分かりやす)」

俺は笑いそうになった。ちょっとだけ口角が上がっていたかもしれない。ババを引いてやるとみょうじは嬉しそうに笑った。

「おい国見!なにババ引いてんだよ!」

俺のカードを引くやつがブーイングをあげる。みょうじは目を丸くした。

「え!?なんで分かったの!!?」

「さあ、ババはどれだろうな?」

ポーカーフェイスでカードを差し出すとそいつは苦悶の表情でカードを引く。ババではなかった。まあいいか、まだカードはたくさんあるしな。

ゲームは進み、皆最後の2枚になった。またみょうじはババを引いたようで絶望する。みょうじは金田一から俺に向き直り頭を深々と下げた。

「こっちババです!引いてください!」

そう言って右のカードを上げる。ど直球すぎるだろと笑いそうになるのをこらえる。

「.........。」

俺は何も言わずに右のカードを引いた。みょうじは「ありがとう!国見くん!」と嬉しそうだ。俺の前の席のやつは「国見ぃ!!」不満そうだった。

......

トランプゲームをしてるうちに宮城に帰ってきた。学校に到着すると伸びをする。外はもう真っ暗だった。監督やコーチが気を付けて帰るように伝えると皆一斉に返事をしてその日は解散となった。

「みょうじ、送る」

国見くんが隣に来て短く言う。

「え?いいよ、大丈夫だよ。近いし」

「危ないだろ、送る」

国見くんはもう一度そう言った。私は真剣に国見くんを見た。

「国見くん、むしろ国見くんに見送りがいるよ。国見くん可愛いもん」

そう言うと国見くんはポカンとした。しかしすぐいつもの表情に戻り私の頭を片手でつかむ。

「い、痛い痛い!痛いよ国見くん!」

ギリギリと掴み上げる。加減はしてくれてるのだろうがそれでも痛い。

「180cm台の大男になに言ってるの?」

「だって国見くんなんかヒョロいし!」

「ヒョロい......?」

国見くんは妖しく笑って(目は笑ってないが)私の両脇に手を差し込んで私を持ち上げた。

「!!?」

「俺のどこがヒョロいって?」

軽々ともちあげれて男女の腕力の差を見せつけられる。私は頬に熱が集中するのが分かった。てかバレる!体重バレる!!

「ごめん国見くん!降ろして!」

「.........。」

国見くんは不満そうにしつつも降ろしてくれた。金田一くんが「お前らなにしてんの?」と呆れ顔で通り過ぎて行った。

「送る」

「はい、よろしくお願いします」

もう何も言うまい、なにが地雷になるか分かったもんじゃない。こうして国見くんに送ってもらった。帰る道中たくさん国見くんと話せて楽しかった。






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