国見ちゃんのクラスメート | ナノ
もうすぐゴールデンウィークがやってくる。周りは今後の予定を話し合ったりして浮き足立っている。私はというと何も予定を入れていない。ゴールデンウィークは絵を描きまくるんだ!とワクワクしていた。
「みょうじ、ちょっといい?」
いつの間にかみょうじさんからみょうじ呼びに変わった国見くんが私に話しかけてきた。
「いいよ、なに?」
「ゴールデンウィークって予定ある?」
あるにはあるが、それは他人から見たらないの範疇だろう。私は「ないよ」と答えた。
「この前練習見に来てくれたよな?」
「うん。」
「及川さんどう思った」
及川さん、あのかっこいい人か。別にどうも思ってないので「国見くんがかっこよかったよ!」と事実を告げると国見くんは珍しく頬を赤く染めた。
「うん、俺のことは置いといてさ」
「スパイク打つ瞬間とかすっごく綺麗だったよ!」
ボールを打つ真似をすると「もういいから」と頬をつねられた。結構な力だったので頬が痛くなった。国見くんは「もちみてぇ」ともにもに私の頬の感触を楽しむ。しばらく楽しんだら満足したのか解放された。私は頬をさすった。
「で、どう思った」
「特に何も、かっこいいとは思ったけど、描きたいとは思わなかったなあ」
国見くんはおかしそうに笑った。
「みょうじの基準って描きたくなるかどうかなんだな」
「言われてみればそうかも」
ちなみにスパイクを打つ瞬間の国見くんは未だに完成していない。何回描いても納得いかないのだ。
国見くんは「予定ないならさ」と用件を切り出した。
「合宿あるんだけど、人手たりなくてさ、手伝ってくれない?」
「えぇ!?」
私がバレー部の手伝いだと!?できる気がしない。でもお世話になっている国見くんの頼みだし、と唸っていると国見くんは私の不安をすくい取るように言った。
「簡単なことしかしないから、頼めない?」
眉をハの字にして言われてしまう。そんな顔をされると弱ってしまう。私の脳が“お前なんて顔させてんの?”と切れている。簡単なことだけだったらまあいいかと了承する。国見くんは「ありがとう」と言って友達のもとに帰っていった。絵を描く暇はあるかなぁなんて今更思った。
......
ゴールデンウィーク初日、私たちは新幹線に来ていた。合宿は東京でやるらしく、大きな画材屋さんに画材買いに行く暇あるかな?とちょっと(だいぶ)ワクワクしていた。バレー部の皆さんとはもう顔合わせを済ましている。及川さんに興味がないのが合宿に参加できる大前提のことだったらしく、バレー部の皆さんにはだいぶ驚かれた。
新幹線に乗り込み席に座る。私の隣は国見くんだった。男子ばっかりでバレー部の友達が国見くんしかいない私に気を使ってくれたのかもしれない。
「みょうじクマすごいよ。大丈夫?」
「東京の画材屋さん行けるかなって思ったらワクワクして寝れなくて.......」
国見くんは申し訳なさそうに眉を下げた。
「多分行けないと思う。ごめん」
「そ、そうだよね。ごめん」
しょんぼりしているのを出来るだけ見せないようにしていたら国見くんはもう一度「ごめん」と言った。どうやら隠しきれてなかったらしい。
「東京まで時間あるし寝たほうがいいよ」
「そうする。ありがとう。」
そう言って瞼を閉じた。徹夜して眠かった私はすぐに眠りについた。
......
起きたら右肩が温かかった。なんだと思ったら国見くんの肩を思っ切り枕にして寝ていた。私は飛び起きた。勢いで後頭部を新幹線の窓にぶつけた。
「いっ...!ご、ごめ...!私......!まくら......!!」
国見くんは私の慌てっぷりにおかしそうに笑った。
「別に気にしてないよ。よく眠れた?」
「う、うん......」
気にしてないのか...ちょっと残念なんて意味不明なことを思った。
なんか心地いいなって思ってたらそりゃそうだよね。国見くん枕にしてたんだもんね。ぶつけた後頭部をさすった。
「後頭部大丈夫?ごんって音したけど。」
「へいき」
本当はすごく痛いけど、そこは我慢だ。
新幹線はもうすぐ目的地に着くようで、アナウンスを始める。国見くんは上の棚から荷物をとってくれた。上げるときも国見くんがやってくれた。男の子ってすごいな、私だったら降ろすのも一苦労なのに。私はお礼を言って新幹線をおりた。
......
新幹線を降りて地下鉄に乗り換える。東京駅は人でごった返していた。なんか祭りあるのか?ってくらいに。みょうじはそんな様子が珍しいのかキョロキョロと辺りを見回していた。するとそんなみょうじに及川さんが寄っていった。
「みょうじちゃん大丈夫?はぐれそうだったら及川さんの袖掴んでていいよ!」
「え、えーと......」
みょうじは困ったように頬をかく。すると岩泉さんが「困らせてるんじゃねーよ!」と及川さんをどついた。
「でもみょうじさんちっこいからな。掴ませてもらったほうがいいんじゃね?」
金田一が言う。余計なこと言ってんじゃねーよ。俺はイライラするのをなんとか隠す。
「固まって歩けば大丈夫だろ。みょうじだって子供じゃないんだし」
及川さんがニヤッと笑って俺の肩に手を置く。
「なになにー?国見ちゃん嫉妬?」
「!。そんなんじゃないです」
肩の手を振り払いながら言う。及川さんは面白いものみっけたと顔に書いてある。俺のイライラはさらに加速した。すると控えめに袖をひかれる。なんだと思ったらみょうじが俺の袖を掴んでいた。
「ご、ごめんね。人多くて不安だから掴んでていい?」
上目遣いでそんなことを聞かれて断れる男はいない。俺は頷いた。及川さんは「なんで俺じゃないのさー!」とご立腹だった。そんな及川さんにみょうじがビクつく。岩泉さんが「怯えさせてんじゃねーよ!」とまた及川さんをどつく。蹴りなどの動作は人が多いので控えてるようだ。みょうじは及川さんじゃなくて俺を選んだ。ただたんに一番仲良しなだけかもしれないが、それでも優越感が湧いた。俺の機嫌は瞬く間に直っていた。
......
電車を降りてしばらく歩くとどこかの高校についた。難しくて読めないでいると国見くんが教えてくれた。やばい、バカってばれたかもしれない。
今から練習試合をやるらしく、選手らはアップをとっている。私はその間にドリンクを作りに行った。人数が多いため、たくさんつくらなきゃならず結構大変だった。
試合が始まる。スコアのつけ方はさっぱり分からないので得点係をした。国見くんと金田一くんは1年生ながらレギュラーらしく、試合にでていた。得点係をしながら国見くんをガン見する。やはり国見くんのプレーはとても綺麗だ。私が見てきたどの景色よりも心を打たれる。描きたい。国見くんをありのまま描きたい。そんな情熱が湧いてくる。私の胸が燻ったまま試合はおわった。結果は青城の勝ち。選手たちは皆喜んでいた。
......
深夜1時、寝つけずに誰もいないロビーに佇む。割り当てられた1人部屋で持参したスケッチブックと鉛筆で国見くんを描いていたがうまく描けなかった。私はため息をついてコップに水をはり飲む。ふと中央を見ると真っ白なホワイトボードとインクたっぷりのマジックがあった。
「.........。」
ホワイトボードの前までくるとマジックを手に取る。画材変えたら上手くいくかも?なんて気持ちが私を動かした。誰もいないし、みんな寝てるだろうし、大丈夫だよねとホワイトボードの上にマジックを滑らしていく。どれだけそうしていただろうか、満足はできないものの一応完成した。私はため息をついた。すると後ろからパチパチという音がした。振り向くとそこには国見くんがいた。
「く、くにみくん!?」
驚きのあまり声がひっくり返る。
「目が覚めちゃってさ、ロビーにきたらみょうじがいたから」
国見くんは机に座っており、そこから立ち上がってホワイトボードの前まできた。隣に国見くんがたつ。私は半歩後ろに下がった。見られた。今まで風景画ばかりだったけど、団体はともかくまさか個人を描いてるだなんて思ってなかっただろう。絶対引かれた。今まで嫌われてなかったかもしれないのに。私は勢いよく床に頭をつけた。
「え!?」
国見くんは驚いた声を出した。
「ごめんなさい!気持ち悪いよね。でも描きたかったの!試合の国見くんすごくきれいでかっこよかったから!」
動揺していらない情報までペラペラしゃべってしまう。これじゃあ余計引かれてしまう。私は泣きそうになった。すると国見くんが私のそばでしゃがんで私の背中に手を添える。
「顔上げて。気持ち悪いなんて思ってないから。」
国見くんは優しい声音でいう。その声につられて顔をあげると国見くんはホワイトボードを見上げていた。
「なあ、みょうじには俺がこんなふうに見えてたの?」
私もホワイトボードを見上げる。あの時の国見くんとは何かが違う。私は首を振った。
「これ失敗作なの。国見くんの良さを表現しきれてない。駄作なの。ごめんなさい。」
そう言うと国見くんは目を丸くして私を見た。
「これで失敗?」
「うん」
国見くんはふいと目をそらした。心なしか少し顔があかくなっているきがする。
「......俺的にはこの絵、めちゃくちゃかっこいいし、みょうじにはこういう風に見えてんだなっておもったらすっげー嬉しかったんだけど」
私は首を振る。
「全然だめ、私の力不足で国見くんを表現しきれてない。ごめんね。国見くんはもっとかっこいい」
そう言うと国見くんは「誉め殺し勘弁して」と顔を赤くした。事実を言ってるだけなんだけどなあ。
私は立ち上がって白板消しを持った。
「消すの?もったいねー」
「こんなの誰にも見られたくないよ」
みられるなら完璧に完成した国見くんがいい。(いや、それでも見られたくないけど)私は白板消しを滑らせた。
「なんか、自分の絵消されるの微妙な気持ち」
「ご、ごめん」
次こそは満足のいく国見くんを描きたい。そう思った。
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