国見ちゃんのクラスメート | ナノ
6月を4日過ぎたころ、国見くんは机に突っ伏して寝ていた。
「(珍しい)」
そう思ってよく観察すると寝てる人の呼吸じゃないと分かって寝たフリをしてるんだと思った。......なにかあったのかな。聞きたいけど、わざわざ寝たふりしてるところを起こしてまで聞くのは野暮だろうと思って聞かないでおいた。
お昼休み、今日は屋上で絵を描く。青城の屋上は今時珍しく解放されており、春や秋は人で賑わうが夏や冬は人はいない。風除けや日よけがないからだ。私は塔矢でスケッチブックを開く。しかし国見くんのことが頭にチラついて集中できない。授業中も寝たフリをしている国見くんが気になって落書きができなかった。こんなに絵のこと以外を考えるのは初めてで少し動揺する。すると屋上のドアががちゃりと開く音がした。私は急いでスケッチブックと色鉛筆をカバンに直した。その人物は塔矢を登ってくる。
「よくこんな暑いところで描けるね」
「国見くん......」
「ちょっと避難させて」
国見くんは私の隣に腰を下ろした。その横顔がどこか悲しそうで悔しそうで。私はいたたまれなくなった。
「避難って?」
「今ちょっと友達と騒ぐ気分じゃないから」
国見くんはパックに入ったぶどうジュースをすすった。パンを開け食べる。どうしよう、何も聞かずに絵を描いたほうがいいのだろうか。葛藤がうずまくが、このままじゃろくに描けやしないと私は聞くことにした。
「......なにかあった?」
国見くんはもぐもぐと動かしていた口をピタリと止め、嚥下した。
「......決勝で白鳥沢に負けた。」
国見くんは苦々しげに吐き捨てた。眉根に皺がよっている。決勝までいけたのならいいじゃないかと思ってしまう。でも国見くんは悔しそうで、きっと全部勝たないと意味がないのだろう。私はかける言葉が見つからず、「そっか......」とつぶやいた。
しばらくの沈黙が流れた。屋上に風が吹く。その風が国見くんのサラサラの髪を揺らした。
「ちょっと肩借りる」
「え?」
国見くんは私の肩に頭をもたれかけさせる。いきなりのことに動揺して心臓が早鐘をうちだしだ。すると「ちくしょう...!」という呟きが漏れる。
「.........。」
ああ、悔しいのだな。国見くんの悔しさの1%も私はわかちあうことができないけれど、肩をかすことによって国見くんが少しでも楽になれればそれでいい。すると何気なく置いていた手の小指が繋がれる。肩がはねそうになるのを無理やり押さえつけた。心臓はさらに早く脈を打った。こんなこと今までなかった。絵を描ければそれでよかったのに、絵をかく高揚感のようなドキドキではない。このドキドキはなんていうんだろう?私の心音が国見くんに伝わるんじゃないかと気が気じゃなかった。
しばらくそうしてると国見くんはゆっくり頭を上げた。国見くんが私を見つめる。顔が思ったより近くてどきりした。
「ありがとな、お陰でちょっとすっきりした。」
国見くんは照れ臭そうに笑った。その笑顔にまたドキドキする。なんでこんなに心臓が早く動くのだろう。止まってくれればいいのに。あ、そうすると死ぬか。なんて間抜けなことを考える。国見くんは最後にゆっくり小指を外した。名残惜しいなんて思った自分に焦る。
「今日は何描いたの?見せてよ」
「何も描いてないの。......国見くんのことが気になって」
国見くんはキョトンとした顔をした。そしてふはっと笑顔になる。
「心配してくれた?」
「うん」
こんなこと初めてで、ちょっと動揺してるとは言わないでおいた。
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