国見ちゃんのクラスメート | ナノ






あの一件以来、国見くんと喋るようになった。国見くんはよく私に「絵を見せて」とせがむようになった。人がいないタイミングを見計らって言ってくれているで私も気兼ねしないで絵を見せれる。他人に自分の絵が認められるのがこんなに嬉しいことだと知らなかった。

お昼、一人でウィダーをすすりながら絵を描く。誰もいない空き教室なのでのびのびと描ける。するとガラリとドアが開く音がした。振り返ると国見くんで手にはパンと弁当があった。

「やっぱここだった。」

国見くんは私の隣に腰をおろした。案外近くてドキドキする。国見くんは付属のストローをパックにさしカフェオレを飲む。そしてひょいと私のスケッチブックを覗き込む。

「相変わらず上手だね」

「あ、ありがとう」

私は手元に絵を隠しながら答える。頬に熱が集中する。描きかけを見せるのは恥ずかしいのだ。国見くんはそんな私を見てクスリと笑った。

「俺、みょうじさんの絵を描くとこ好きだから見せて欲しいんだけど」

「!!」

なんでこの人はこうも嬉しいことをサラッと言ってしまうんだろう。私の頬は更に赤くなった。そんな顔を見られたくなくてスケッチブックで顔を隠す。

「みょうじさんって昼休み大概一人でいるけど友達はいいの?」

「お金ためるためにお昼抜いてることになってるから、ご飯見るの辛いってことで抜け出してるから大丈夫だよ」

そう言うと国見くんはふーんと言った。

「なんでいつもウィダーなの?ちゃんと食べなよ」

「これが一番早いからいいの」

絵を描くこと以外にあまり時間を使いたくない。言外にそう言うと国見くんは顔をしかめた。

「そんなんじゃいつか倒れるよ。俺のパンやるから食いな」

そう言ってパンを差し出されれ。いいのかなと逡巡していると国見くんは痺れを切らしたようにパンの包装を開けた。

「はい、口開けて」

「!!」

これはいわゆる“あーん”というやつではないか!?落ち着いた頬の色がまた染まり出す。国見くんはそんな私にお構いなく「ほら早く」と急かす。

「じ、自分で食べるよ!」

そう言って国見くんからパンを受けとる。国見くんは半笑いで「なんだ、残念」といった。からかわれてる。悔しい、と思いつつパンにかぶりつく。クリームパンだったようで、口内にクリームの程よい甘さが広がる。その甘さに頬が緩む。

「そんだけ美味そうに食ってくれたらあげた甲斐がありました」

国見くんは嬉しそうに笑う。その顔にまた私の胸は高鳴った。なんなんだ一体。生まれて初めての感情に戸惑う。私はパンを咀嚼し、嚥下する。

「そうだ、お金いくらだった?」

ドキドキを振り払うよう聞くと国見くんは「いらない」と答えた。

「だからさ、絵描くとこ見せてよ」

「見られながら描くのすっごい恥ずかしんだよ」

「そうかもね、でも見たい」

胸がきゅうっとなった。そこまで求められるのはすごく嬉しい。私の絵を気に入ってくれてるんだ。私の心臓はまた騒ぎだした。

「わ、わかった。いいよ」

そう言うと国見くんは嬉しそうに笑った。

「ねえ国見くん。」

「なに?」

国見くんは弁当をたべながら答える。口がもぐもぐ動いてて可愛いなんて男の子にたいして失礼だろうか。

「私、今人を描くのにハマってて、それでバレー部描いてみたいなって。だから練習見に行っていい?」

人を描くのをハマってるなんて嘘っぱちだ。本当は練習姿の国見くんが見たいだけだ。絵以外にこんなに興味を抱くのは初めてで戸惑っているが、そこは本能に従おう。国見くんは「あー...」と嫌そうに唸った。

「だめ?」

「いや、ダメじゃいけど...」

国見くんは不味そうにカフェオレをすすった。どこか歯切れが悪い。嫌なのかな、なんて不安になる。国見くんは私の顔を見て苦笑した。

「......うちの練習騒がしいからビックリするんじゃないかと思っただけ。別にいいよ」

「ありがとう!」

私はパンを食べるのを再会した。それにしても、運動部なんだから騒がしいのは当たり前じゃないのか?と思ったが、騒がしいの意味が違うということは後で知ることになった。

......

ひょんな事がきっかけで喋るようになったみょうじなまえさん。始めは絵にしか興味なかったが、話しているうちにみょうじさん自身にも興味が湧いてきた。今ではちょっと気になる女の子。そんな立ち位置。みょうじさんは昼休みは大概一人で絵を描いている。俺はそれをたまに覗かせてもらっている。今日もいつもの空き教室にいた。となりに座って絵を覗き込む。今日の絵は空き教室から見える大木の絵だった。色鉛筆で色付けされているそれは本物以上に美しかった。

みょうじさんはいつ見てもウィダーでただでさえ細いというのにそんなものしか食べないと折れてしまうんじゃないかと不安になる。パンをあげようとすると俺の手元をみて固まっている。俺は袋を開けて口元にパンをさしだした。

「はい、口開けて」

「!!」

分かりやすくみょうじさんの頬が赤く染まる。かわいいななんて思いながらにやけそうな頬をこらえる。

「じ、自分で食べられるよ!」

そう言ってパンを取られる。少し残念だ。

するとみょうじさんはバレー部の練習を見にきたいといいだした。別にいいけど、及川さんがいるんだよなぁ。と微妙な声が漏れる。及川さんに惚れられたらどうしようとカフェオレをすする。これってこんなに苦かったっけ?とさっきとは全然違う味のカフェオレを睨んだ。

みょうじさんを見ると不安そうな顔をしている。そんな顔をされると弱ってしまう。俺は苦笑して了承した。すると花が咲いたような笑顔になる。その笑顔が及川さんに盗られませんようにと願った。

......

放課後、バレー部の練習を見に行く。騒がしい、確かに騒がしい。主に黄色い声援で。「及川さーん!」と可愛らしい女の子たちが言うと1人の男の人がその声援に答えるように手を振った。あの人が及川さんかあ、確かにかっこいいな。描きたいとは思わないけど、と大変失礼なことを考えてしまう。それより国見くんはと国見くんを探す。ちょうどスパイクをうつ瞬間だった。国見くんは力強くボールを打つ。ざわりと鳥肌がたった。その姿はとても美しく、流麗だった。私はその姿を目に焼きつけようと必死になった。描きたい、絶対に描く。余すところがないようにかじりついて国見くんを見る。するとふいに国見くんがこちらを見た。国見くんはびっくりしたような顔をした。やばい、私の熱視線に引かれたかもしれないと血の気が引く。しかし国見くんは私に手を振ってくれた。私も急いでふり返す。勢いよく振りすぎて腕の付け根が痛くなった。国見くんはそんな私をみて笑った。






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