国見ちゃんのクラスメート | ナノ






私は絵を描くのが大好きだ。暇さえあれば絵を描いていた。しかし小学校低学年のころ、こんなことを言われた。

「みょうじってさー、いっつもえ、かいてるよなー」

「きもちわるーい」とその男の子は言った。その言葉にめまいがした。そうか、ずっと絵を描くことは気持ち悪いのか。それから休み時間に絵を描くことはなくなった。しかし、授業中にはこっそり描き続けた。そんな甲斐があってか私の成績はすこぶる悪い。それに母は苦言を呈した。

「あんた絵ばっかり描いてないで勉強しなさい!受験生でしょ!」

中学3年生になっていた。そろそろ勉強しないとやばいぞという時期、私は高校は家から近かったらどこでもいいやと考えていたが、母そうではなかった。

「いい高校行けなかったらあんたの画材、全部捨てるからね!絵も描かせないから!」

それは困る。今まで誕生日プレゼントやお小遣いをためて必死に集めた大切な画材だ。それに絵描けないということは私にとって死ぬのと同義だ。それならば、いい高校に行ってしんぜよう。私の家から近くて偏差値も高い高校といったら青葉城西かな?と青城に行くことにした。しかし偏差値を調べて絶望した。私からしたら手の届かないお月様のような高校だった。もう少し偏差値を落とせば他にも高校はあった。しかし歩いて行ける距離にあるいい高校は青城しかなかった。通学時間はできるだけ短くしたい。絵の描く時間が減ってしまう。私は覚悟を決めて寝る間も惜しんで勉強した。その間は流石に絵を描くのは控えた。青城に受かるまでの我慢。そして私は奇跡の合格を果たす。母は涙を流した。

「やれば出来るじゃない!」

そして私は青葉城西の生徒となった。

......

青城に入って数週間がたった。私は相変わらず授業中にこっそりばれないように絵を描いていた。ノートは毎回取ろうと思うのだが眠け覚ましにと絵を描き始めると夢中になって気づいたら終わりを告げるチャイムが鳴っている。習慣とは怖いものでばれないように隠して描くのを無意識にやってのけている。私の席が1番後ろというのも大きい。その日も結局ノートに落書きばかりして放課後を告げるチャイムがなる。私は帰り支度をして帰路についた。

「あれ?ない」

帰る途中、開けっ放しのカバンがふと気になって覗いてみると数学のノート(と言う名の落書き帳)がなくなっていた。あれには描きかけがあって帰ったら完成させようと思っていたのに。私は急いで取りに戻った。

......

教室に忘れ物をした俺はそこそこの早歩きで体育館から教室に戻る。ついてないなんて思いながら教室のドアを開けるとそこには一冊のノートが落ちていた。

「?」

拾ってみると数学と表紙に書いているものの名前は書いてなくて無意味に裏返してみたりした。やはり名前は書いていない。失礼して中を覗くことにした。数学のノートなんて、覗かれてもなにもやばいことはないだろう。

「すっげ......」

中を覗くとそこには絵が描いてあった。三色ボールペンを使った風景画から凛々しいライオンの絵など、とにかくプロかよってくらい上手い絵がそこにあった。夢中になってページをめくる。もっと見たい、もっと。するとすぐ近くから悲鳴があがった。なんだと思ってそちらを見ると同じクラスのみょうじ...さんだっけか?が顔を真っ青にして立っていた。

......

教室に戻ると同じクラスの国見くんが私のノートを見ていた。私は悲鳴を上げて国見くんからノートをひったくる。体が震える。ぜったい引かれた。気持ち悪いって思われた。

「それ、みょうじさんが描いたの?」

「ち、違うよ!?」

とっさにバレバレの嘘をついてしまう。しまった、ひったくらずに国見くんが手放すまで待っていれば、ばれずに済んだかもしれないのに。今更後悔しても後の祭りだ。

「わ、私のノートに似てるからひったくちゃった!」

「ごめんね!」とお辞儀する。我ながら苦しい言い訳だ。すると開いたカバンからノートがドバドバと落ちていく。それらすべてが開いた状態で中が丸見えになる。もちろん数学だけのノートに落書きしてるはずもなく、全てのノートに私の描いた絵がのってあった。ああ、もう言い訳できない。終わりだ。私の学校生活終わった。と絶望していたら国見くんが私のかわりにノートを拾ってくれた。

「はいこれ。すっげえ綺麗な絵だね。」

国見くんは私を安心させらようににっこり笑った。......気持ち悪いくないのかな?

「あの..... 気持ち悪くないの?こんな絵ばっかり描いてて」

「いや?すっげえとは思ったけど、」

国見くんの表情は至極真面目で本気で言ってることがわかる。絵を褒められるのは初めてで、私の頬に熱が集中する。

「あ、ありがとう」

そう言って頷くのが精一杯だった。国見くんは「じゃあ」と教室を出て行った。

「あの!」

国見くんの後ろ姿に声をかける。国見くんは振り向いた。

「私がこんなに描いてるって誰にも言わないでね」

国見くんは不思議そうにしつつも「分かった」と了承してくれた。そして国見くんは廊下の先へと消えた

。私はしばらくその場を動けなかった。国見英くん。私の絵を初めて褒めてくれた人。なぜかその事実に心臓がドキドキ鳴っていた。










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