05
頭に響く声をたよりに、紫苑は街を走る。
【改装中につき締切】
そう掲示された、ライトの落ちたデパートのフロアに足を踏み入れる。 かつん、かつんと靴音が響く。今朝の夢が、なんとなく思い出される。
「どこ、どこにいる…?」
おそるおそる、助けを求める声の主に呼びかけながらフロアを歩く。 と、爆発音がした。直後、天井が抜け、瓦礫とともに何かが紫苑の目の前に落ちてくる。
フェネックだった。身体中から出血し、息も絶え絶えに呟く。
「…たす…けて」
急いで駆け寄る。
カツン。 靴音がした。顔を上げ、息を呑む。
ネズミが、いた。 今朝の夢に出てきた、その格好で立っている。
「そいつから、離れろ」
殺気をはらんだ声で、ネズミはすごむ。 紫苑はフェネックを抱き上げて後ずさった。
「だめだ」 「どうして」 「だって、声が聞こえたんだ、助けてって」 「へぇ」
一歩、ネズミが前へ出る。
「よこせ」 「だめだ、殺しちゃだめだ、なんできみが、」
紫苑の言葉はシューっという音にかき消された。それとともに白煙がネズミに吹きかかる。
「紫苑、こっち!」 叫び声…沙布だ。 沙布は手に持った消火器を投げ捨てると、紫苑の腕を引っ張って走り出す。
消火器で粉を吹きかけられたネズミは、紫苑と沙布、そしてフェネックが消えた方を見据える。 そちらへ足を踏み出した時、風景が歪んだ。
ぐにゃり。
不思議な空間。極彩色の蝶が舞い、髭の生えた綿(わた)が跳び跳ねる。 あたりには毒々しい色の薔薇がはびこっている。
ちっ。ネズミは舌打ちする。
「…こんな時に」
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