05
紫苑は、仁王立ちで沙布を糾弾するその少女を唖然と見上げた。
少女はまだ若く、なめらかな褐色の肌を持ち、漆黒の長い髪を高い位置で結わえ、赤色が基調のコスチュームを纏っている。
「おれが止めなかったら、おまえさん、あの使い魔仕留めちまってただろ」
少女が一歩、足を踏み出す。 赤いブーツがカツン、と固い音をたてる。
沙布は服の汚れを払って立ち上がり、少女を睨み付けた。
「もちろんよ。でもあなたが邪魔するから、逃げられてしまったじゃない!」
はん、と少女は鼻を鳴らす。
「ばっかだなぁ。卵生む前のニワトリ絞めてどうすんの?何度も言うけど使い魔だぜ、あれは」
「知ってるわよ!使い魔だって人を殺すのよ、放っておけないわ」
「はぁ?何言ってんの?使い魔はグリーフシードを持ってない。何人か人間を喰ってグリーフシードを持つ魔女になるまで待たなきゃ。…あぁ、まさかとは思うけどおまえさん、人助けのために魔法少女やってるとかほざくわけ?」
沙布は思いもよらない少女の言葉に虚を突かれ、二の句をつげずにいる。 さらに畳み掛けるように少女が続ける。
「なぁ、食物連鎖って知ってるか?弱肉強食のヒエラルキーだ」
一歩、一歩と少女は靴音を路地に響かせながら沙布に近づく。
「弱い人間を魔女が喰う、その魔女を魔法少女が喰う。分かるか?魔法少女はヒエラルキーの頂点にいる存在さ。弱い人間なんて、気にかける必要もない」
茫然自失で少女の言葉を傍受していた沙布は、はっと我にかえり怒りに震える。
「理解できないわ!なんてこと言うの、あなたは!」
はぁーと少女は芝居がかった長い溜め息をつく。
「これだから馬鹿は困るよなぁ。じゃあ、これは分かるか?得物には限りがある。グリーフシードを他の奴に取られる前に魔女を仕留めなきゃならない。ライバルは、排除するしかない。だからさ、…恨むなよ!」
突然、少女は槍をくるりと回転させ、路地に結界を張る。 紫苑とフェネックは結界の外側へと弾かれる。
「うわっ」
転んだ紫苑の肩に、フェネックはひらりと飛び乗った。こちらも、はぁと溜め息をつく。
『面倒なことになったね。本当にあの子は血の気が多くて困るよ』 「なん…で、こんなことに…」
結界の内側では、少女と沙布が戦っていた。
あれでは、売り言葉に買い言葉だ。 沙布の方も激昂し、少女に仕掛けられた喧嘩を買ってしまっている。
「こんな…こんなことって、ないよ…。彼女も、魔女少女なんだろ?だったら、仲間同士でなんで、闘うんだ…!」
紫苑は結界を破ろうと、拳で透明な壁を叩き、叫ぶ。
「沙布!やめろ!その子は魔女じゃない、魔法少女だろ、闘う相手を間違っているだろ!やめろ、やめろ!沙布!聞こえないのか!?」
少女の槍と沙布のサーベルが斬り結んでは、しのぎを削り、お互いに飛びすさっては、肉迫する。
やれやれ、とフェネックが首を振った。
『紫苑、無駄だよ、彼女たちには聞こえてない』 「…フェネック」 『どうしても力ずくでも止めたいのなら、方法がないわけじゃないよ』 「え?」 『この戦いに割り込むには同じ魔法少女でないといけない。でも君になら、その資格がある』
紫苑が目をみはる。 フェネックは尻尾をひと振りして首をかしげる。
『本当にそれを望むならね』
そうこうしている間にも、戦いは続いている。 少女の方が優勢だ。何度も少女の攻撃をまともに受けた沙布は傷付き、ついに地面に倒れる。 その沙布に向かって、少女はぴたりと矛先を向け、口端を上げた。
「…っ、フェネック!」
ぼくを、魔法戦士に!
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