04
魔女の結界に入ると、すぐ階段があった。空中に浮かび、どこに続くわけでもなく伸びている。 タン、タン、タン。 沙布と紫苑はその階段をのぼる。
この結界は全体的に明るいクレヨンの色彩をしていて、階段もカラフルだ。 虹色の空には、水色と白のクレヨンで描かれた雲が浮き、黄色と赤で塗りつぶされた太陽が輝いていた。
キャハハハハ、キャハハハハ、キャハッ!
幼児の笑い声が聞こえる。
あのね、きょうはね、キャハハハハ、キャハハハハ!
甲高い笑い声は空間に反響し、どこから聞こえてくるのか分からない。
ねぇママ、どこにいっちゃったの?まいごになっちゃった!キャハッ、キャハハハハ!
ぶぅん、と羽音が耳元をかすめる。 はっ、と上を振り仰ぐと、使い魔が空を飛び回っていた。
赤い顔に、緑の髪の毛、オレンジ色の胴体。 髪は三つ編みで顔の両脇で跳ねている。 真っ黒い口から、あっかんべーをするように舌が時折のぞいく。
下半身と一体化している、幼児の落書きのような乗り物は、使い魔が飛び回るうちに、飛行機や電車、自動車、船などに変化していく。
「あれが、この結界の主…使い魔ね!」
沙布はソウルジェムを取り出し、さっと変身する。
『気をつけて、沙布。あの使い魔は臆病だけど、戦闘能力が高い。人間をボールに変えてしまう力を持っていて、ボールに変えられたら今までについた嘘の数だけ地面を跳ねないともとの姿に戻ることが出来ないんだ』
嘘をついたことのない人間などいない。 それは、君だって同じだろう?沙布。
フェネックはそう言わんばかりに尻尾を降った。 沙布は僅かに顔をしかめ、ひとつだけ頷くと、階段を踏み込む。空中を舞う使い魔めがけてサーベルを振りかざす。
カキィン。
金属と金属のぶつかる音がした。
え?
紫苑は頭上を仰いだ。 空中には、使い魔ではなくひとりの少女と剣を交えた沙布がいた。 いや、正確には剣ではない。相手の少女の得物は、槍だった。
え?なぜ? 突然現れた、あの少女は?誰?
紫苑は驚いてぽかんと口を開ける。 沙布も度肝を抜かれたようで、大きく目を見開いている。
見知らぬ少女は無表情のまま槍を横に凪いだ。 沙布はバランスを崩し、空中から階段へ落ちる。 その瞬間、紫苑たちは結界から弾き出され、路地に放り出される。 使い魔が逃げたのだ。
無様に地面に転がる紫苑や沙布とは違って、その少女は、すとんときれいに着地する。
少女は鼻に思いっきり皺を寄せ、ふんっ、と笑った。
「おまえさん、馬鹿ぁ?あれが使い魔だって、分かんないのか?」
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