01
「莉莉を、健康な体にして。それが、私の願いよ」 『契約してくれるんだね?』 「その奇跡が、本当に起こるのなら」 『大丈夫、君の願いは間違いなく叶えてあげられる。じゃあ、契約成立だ』
『受け取るといい。それが君の願いだ』
「大丈夫なの?沙布」 昼休み、紫苑は校庭の芝生に並んで座る沙布に、ぽつりと聞いた。
「もちろんよ」 ぐーっ、と伸びをして沙布は芝生に大の字になる。 真っ青な空を見上げて、にっこり笑う。 「後悔なんて、あるわけない。ただ…」 「ただ?」 「後悔があるとすれば、迷ってたことかしら」 「え?」 「どうせ契約するなら、もっと早くフェネックに頼んでいたらよかった。そしたら、そうしたら…山勢さんは死ななかったかもしれない」 「沙布、でもそれは」 「私と二人がかりでお菓子の魔女と戦っていたら、倒せたかもしれないでしょう。それが、後悔」
紫苑は体育座りのまま、俯く。 蚊のなくような声で問う。
「怖くは、ないの」
うーん、と沙布は仰向けのまま髪を指に巻きつけていじる。 「それは…そうね」 「やっぱり、ねぇ」
紫苑の続きの言葉を遮るように、沙布は勢いよく起き上がる。 俯いた紫苑の顔を覗きこみ、その額を軽く弾く。
「いた…」 「何、あなたが沈んでるの?」 「だって沙布…」 「そりゃあ怖いわよ?でも、昨日の魔女は一発でやっつけられたし。それに、それにね」 「うん」 「昨日、紫苑や力河さんや楊眠さん、いろんな人を一度に失ってしまったかもしれない。そっちの方が怖いの。私がみんなを助けることができて、良かった。本当に良かった。そう、思うの」 「そう…」 「莉莉の意識も戻ったのよ。今日も帰りにお見舞い行くの。紫苑も行くでしょ?」 「あ、うん」 「楽しみね、久し振りに莉莉に会うの」 「沙布…」
沙布の明るい声とは反対に、紫苑は沈んだ声で呟く。
「そんなに心配しないでよ、紫苑。不安もたくさんあるけど私、今とても晴れやかな気持ちよ」
そう言って沙布は笑う。 でも紫苑には、沙布が無理をして笑顔をつくっているようにしか見えなかった。
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