06


紫苑が死を覚悟した時。
ザシッという音とともに使い魔が粉砕された。

「危機一髪だったわね、紫苑!無事?」

沙布の、溌剌とした声。
このところずっと沈んでいたのに…久しぶりに聞いた、明るい声。

「こんな魔女なんて、瞬殺よ!」

その言葉通りに、沙布は手にもった剣で箱型パソコンの姿をした魔女と人形の使い魔を次々と切り裂き、粉々に砕く。
紫苑が呆気にとられて言葉も発せられないうちに、沙布はすべての使い魔と魔女を倒していた。

気がつけば結界は消滅していて、紫苑たちはオフィスにいた。
魔女に操られていた人々は皆一様に気絶して床に倒れている。

「あっ、グリーフシードよ。見て紫苑、わたし、勝ったわ!」

沙布が無邪気な笑顔で笑う。
紫苑は床にへたりこんだまま、沙布を見上げた。
青と白を基調としたコスチューム。青い鎧の下には白い衣装、短いスカートは青色。青のロング手袋をつけ、白いマントをはためかせ、腰には立派な刀剣をさしている。

「…沙布…その格好…まさか」
「ふふ、そうよ、そのまさか」
「じゃあ…魔女少女に…」
「ええ」

沙布は晴れ晴れとした顔で笑った。


一方病院では、たくさんのチューブに繋がれた莉莉が目を醒ましていた。見回りの看護婦がそれを発見する。

「ドクター!羅史先生!201号室の莉莉さんが、意識を取り戻しています!」
「なん、だと…?そんなことが…」

莉莉の主治医羅史はずり落ちた眼鏡を直す。

彼女は確実に遷延性意識障害だった。
生命維持に必要な脳幹機能が不可逆的に停止してほぼ脳死状態だったはずだ。
それなのに何故…そう呟きながら莉莉の個室へ向かった。


その病院の屋上に、二つの影があった。
ひとつは小さな影、もうひとつは大きい。

『まさか、君がくるとはね…イヌカシ』

イヌカシと呼ばれた大きい方の影は、ふん、と鼻を鳴らした。

「どういうことだ、フェネック。山勢の奴がくたばったって聞いたから来てやったってのに」
『この街にはもう、新しい魔女少女がいる。君は…』
「別に、関係ないだろ?」

雲間から月が現れ、月明かりがイヌカシの漆黒の長髪と褐色の肌を照らす出す。
イヌカシは、手にもったビスケットを口に放り込む。
ニヤリと笑ってフェネックに言い放った。

「要はぶっつぶせばいいわけっしょ、そいつ」



ここでひとつ訂正。
莉莉の病状についてWikiで少し調べたところ、「植物状態」の使い方を少し誤っていたことが分かりました。

以下Wikipediaより引用。

【概要】
遷延性意識障害(せんえんせいいしきしょうがい)とは、重度の昏睡状態を指す病状。俗にいう植物状態(しょくぶつじょうたい、Persistent vegetative state)についても記述する。

【定義】
日本脳神経外科学会による定義(1976年)。
1. 自力移動が不可能である。
2. 自力摂食が不可能である。
3. 糞・尿失禁がある。
4. 声を出しても意味のある発語が全く不可能である。
5. 簡単な命令には辛うじて応じることも出来るが、ほとんど意思疎通は不可能である。
6. 眼球は動いていても認識することは出来ない。
以上6項目が、治療にもかかわらず3ヶ月以上続いた場合を「植物状態」とみなす。

【回復の見込み】
1994年の米国の遅延性植物状態に関する多学会特別委員会では、「脳外傷後1年又は酸素欠乏後3ヶ月(のちに6ヶ月に修正)を経過しても意識の兆候がまったく見られない患者は回復の見込みがゼロに近い。」とした。こういった患者を「永続的植物状態」と呼んだ。

【脳死との比較】
「植物状態」は、一般的には脳の広範囲が活動出来ない状態にあるが、辛うじて生命維持に必要な脳幹部分は生きている状態を指す。一方脳死は生命維持に必要な脳幹機能が不可逆的に停止している状態を指す。植物状態では自発呼吸があり、脳波も見られる。植物状態の場合はまれに回復することがあるが、脳死の場合は回復しない。

とりあえず以上。
魔女少女になる際、沙布のフェネックにへのお願いは、『絶対に回復の見込みのない莉莉を回復させる奇跡』である必要がありました。
なので、莉莉は「永続的植物状態」という事にしたかったのですが、そう定義するには6ヶ月〜1年の期間が必要でした(←これ最大の誤算)
ということで、莉莉は「脳死に近い状態」にしました。
脳死だと回復する見込みはないので。

もっと詳しく調べるといろいろおかしい事あると思いますが、まあここではこれが本題ではないのでこの辺りでお許しくださいませ。



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