01
紫苑は重い気持ちを引き摺りながら歩く。 気がつけば足が勝手に、山勢のマンションの方へ向いていた。
山勢の部屋の前に立つ。もうそこの住人はいないと知りながら。
ふとドアを見る。僅かに開いている。むろん鍵もかかっていない。 少しためらいながらも、紫苑はドアを開け、部屋に上がってみる。 沙布と一緒に山勢の話を聞いたリビングに入る。大きな窓から夕陽が射し込み、部屋を綺麗なオレンジ色に染めている。テーブルの上に、食べかけの菓子が取り残されていた。
それをそっと片付け、キッチンに行く。ふと流しを見ると、つけおきの食器があった。まだ洗われてない。
今にも山勢がふらっと帰ってきそうな部屋。鼻の奥がつん、として涙が溢れてくる。 紫苑は床に力なく座り込む。
山勢さん、本当に急いで来てくれたんだ。 部屋の片付けもしないで、ドアの鍵さえかけずに。
魔法戦士としての残酷な最期。 山勢は、紫苑を信じていた。 だが紫苑は山勢の期待に応えられなかった。 紫苑には肩の荷が重すぎた。
ごめんなさい。
紫苑はひとり、夕陽に染めあげられた部屋でむせび泣いた。
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