誰にも届かない
...2


シャイレは「何処に行くの?」という質問に全く答える事もなく歩き続けていた。
他に何を尋ねられても答えないが。

「コルーは何歳?」
「五歳!!」
「……そっかぁ」
リシュは悲しげな目を前に向けた。
「お姉ちゃんは?」
「十七歳、だよ」
「凄ぉーい!!」
「コルーも十七歳になれるよ!!」

コルーはグッと上を向いて、シャイレの方を向いた。

「お兄ちゃんは?十七歳??」

シャイレはまた睨むように見下ろす。
コルーはそんな目付きも気にせずにシャイレを見ていた。

いつものようにすぐに目線を戻すシャイレ。
それでもリシュはシャイレの微かな頷きを見逃さなかった。

「十七歳だって」
「お姉ちゃん、またわかったんだ凄ーい!!」

気がつくとシャイレは立ち止まっていた。
アースウェスに着いていた。
それでも二人はシャイレに着いていっていた。

先程の場所には全く及ばないが、荒んでいた。
戦闘機こそ使われないが、銃を持った兵隊は街をうろつく。

シャイレは路地裏を進む。
みんな路地裏か家の中。
家自体は滅多に襲撃されない、からだ。

そうして歩いていると、リシュは、また突然立ち止まった。

「ごめん!待って……!」
「どうしたのぉ?」

壁を向いて、しゃがみ込むリシュに合わせて、コルーも座る。
リシュが向いた先に、女の人がしゃがみ込んで俯いていた。

シャイレは、またかよ。という感じの口の動きをした。
ため息は、聞こえたが、声は聞こえるほどの大きさではなかった。

リシュとコルーも二人でコソコソと話し始めた。

「ちょっとお人形ごっこしよっか」
「お人形ごっこ?」
「そう。コルーがお人形になるの」
「えぇ??」
「私が、お人形さんになったコルーを動かすの」
「面白そう〜!」
「ニコニコしたお人形さんになってね!」
「わかったぁ!!」

話が終わると、リシュはコルーを女の人のほうに向かせた。
リシュは後ろから、コルーの手首をそっと掴んだ。
そのまま、リシュは女の人に向かって語りかけた。

「お母さん、もう泣かないで」

言われたとおり、ニコニコしているコルーの手を、動かしながら。

「これから僕はお父さんの所に行くんだよ。もう、何処も痛くないよ」


「……僕達のこと、忘れないでね……ありがとう……」


女の人は、俯いた顔を上げていた。
コルーの目を真っ直ぐ濡れた目で見つめていた。
そしてゆっくり立ち上がって、優しく囁いた。


「私の家に、あがってもらえますか?」



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