誰にも届かない
...3


案内された、家の中は、寂しいくらいに、綺麗で、整っていた。

「夕食、いかがですか?」

涙も止んだ彼女は、とても優しい目をしていた。
そんな目をぼんやり見ながら、リシュは答えた。

「いいんですか……? そんなにしてもらって……」
「でも、お腹すいているでしょ?」

その問いに答えたのは、コルーだった。

「ウン!!今日何も食べてないの」

コルーの笑顔に、女の人も微笑んだ。
それにつられて、リシュも笑い、シャイレは無表情で横を向いていた。

「名前、教えてなかったわね。私は、マリーといいます」

リシュとコルーも名乗り、何も言わないシャイレの代わりに、リシュが答えた。
マリーは小さく「よろしく」、と囁いて、台所に立った。

待っている間、リシュとコルーはまた楽しそうに飽きることなく話していた。

「お兄ちゃんなんで、喋らないの?」
「喋るのが好きじゃないんだよ。きっと」
「なんで好きじゃないんだろうね?」
「うぅーん……話すのが、恥ずかしいのかな?」

自分のことを話されていても、シャイレは我関せずと壁にもたれかかっていた。
眠っているかのように、目を閉じてもたれかかっていた。

「お兄ちゃんカッコいいよね!」
「凄い綺麗な顔立ちしてるよね。初めて会った時、ビックリしたよ」

そして、リシュは、シャイレに助けてもらった事を話した。

「お兄ちゃん凄ーい! やっぱり優しい人だったんだ!!」

"やっぱり"の言葉で、突然シャイレは顔を上げてコルーの方を見た。
目が合って、ニコニコするコルー。
すぐに、目を逸らして、また目を閉じるシャイレ。

――何か……少し動揺した……?

リシュは、思ったが……気のせいだ、と思い直した。
相変わらずニコニコするコルーの金髪をそっとなでた。


「ご飯、できましたよ」


並べられた、料理に溢れんばかりの笑顔を向けるコルー。

シャイレは、自分の分を無言で見つめていた。
リシュは、そんなシャイレの目から、驚きとか、微かな嬉しさを見たような気がした。


それでも、他の誰もがその目を見ても、何の感情も浮かんでいないと捉えただろう。



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