誰にも届かない
...19


リシュは、またあの小さな家の前に来た。
シャイレはもう来ていた。
家の前に、座っていた。

リシュは子供達に、呼び出されたのだ。

「この前の場所に来てくださいだって」

どうやってその言葉を子供達に伝えたのかが凄く不思議になったが、リシュは言われた場所に来た。

シャイレは、リシュの姿を見つけると立ち上がった。
リシュの方に、素早く歩いていくと、封筒を渡した。
封筒には、綺麗な青い模様があった。
リシュは、凄く驚いた表情でシャイレを見た。
シャイレはいつもの無表情で目を逸らすが、リシュには照れているとわかった。
照れて目を逸らしたまま、シャイレは一枚の紙を取り出した。
紙には、丁寧な文字が並んでいた。

『字、施設のみんなに教わった。
教わったことないから、今まで書けなかったんだ……。
みんな、親切に頑張って教えてくれた。
手紙、字が読みづらいかもしれないけど、今読んじゃって……』

リシュが、驚いた表情を崩さずにシャイレを見つめる。
シャイレは相変わらず照れて目を逸らす。

「いつのまに……」

呟きながら、リシュは封筒を開けた。
中の便箋も綺麗な模様が描かれていた。
そこにも、丁寧な字が並んでいた。
書ける様になったばかりなのに、綺麗な字が並んでいた。


『初めて、手紙というものを書く。
何を書いていいか……何から書いていいか……正直わからない。

まず、俺の失われた記憶から書こうと思う。
思い出させてくれたのは、空とルラさんと、リシュなんだ。
本当に、感謝している。

俺は、ホープウェイで、生まれた。
父さんは、物心つく頃にはもういなかった。

母さんと、妹と、ずっと一緒に住んでいた。

周りの、友達とか知り合いとか、みんな殺されたり、連れて行かれたりしてしまっていた。
母さんは、危険を感じて、誰にも見つからないような家に俺達を連れて移った。

そこで、三人で静かに暮らしていた。
俺はいつも外で空を見て過ごした。

退屈にもなりそうで、いつ襲われるか怯える毎日だった。
空を見ていると、そんなことも受け止めている気がしていた。

リシュとルラさんが俺を訪れてきたのは、いつもみたいに俺が空を見ているときだった。
リシュも覚えていてくれたんだよな。

誰も来ない場所に二人が来たから、凄く、凄く驚いた。
でも、必死に話しかけてくれたのが、嬉しかった。
とっても嬉しかった。

久しぶりに家族以外と話せて、気分が凄く明るくなれたのを感じた。』



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