誰にも届かない
...14


布の上には、一人の少女が横たわっていた。

「……ルラ……?」

青ざめたリシュの声は震えていた。
ショートのブロンド。固く閉ざされた瞳。
活発であったという面影は、微かにしかなかった。
何箇所にも及ぶ傷跡が痛々しかった。

リシュはその場に崩れ落ちた。
そのまま何も言えずに。そこだけ時間が止まってしまったかのように。

動かなかった。動けなかった。

ただ目の前に横たわる事実がリシュを縛り付けた。

何で……何で……?

繰り返し頭をよぎる言葉も声にならなかった。
既に、たくさんのものを失ってきたリシュに、この喪失は大きかった。

シャイレは、横たわる少女を見て立ち尽くしていた。
結局リシュに何もできなかった。
そんな自分を嘲笑するかのようにも立ち尽くしていた。


どれだけの時が経っただろう。
長いようにも短いようにも捉えられた。
呆然自失で動けなくなったリシュをシャイレが部屋に連れて行った。

さっきよりずっと、ずっと重い静寂が部屋にのしかかっていた。
ベッドの中でリシュは泣き続けていた。
必死に声を押し殺しているので、シャイレにまで泣き声は届かなかった。
それでも気配や雰囲気でわかっているのかシャイレは何も言わなかった。
何も言えなかった。

ベッドに背を向けてジーっと床を見つめ続けるシャイレ。
背後から声がする。

「今日はベッド、使っていいからね」

シャイレは凄い速さで振り返って、リシュのほうを見る。
リシュは顔を上げていないが、シャイレはフルフルと首を横に振る。

「……使わないでいると、ルラはもったいないって言うから……」

シャイレはリシュのほうを真っ直ぐ見る。
もしかして……また声でも、ルラの声でも聞こえたのだろうか?
リシュのほうを見たまま、シャイレはきょとんと首を傾けた。

「せっかく二つあるんだから……」

また顔を上げずにリシュは言う。
腑に落ちないという感じを少し漂わせているが、シャイレは頷いた。

リシュが、泣きつかれて眠ってしまった頃、シャイレは立ち上がった。
リシュに言われたとおり、モソモソとベッドに入った。
布団の中でもごもごしている。

……やわらかい布団に感動しているらしい。

人の温かさに触れた記憶がないシャイレは、リシュと出会ってからの起こること一つ一つに感動していたらしい。
始終無表情であるが……。

布団の端をギュッと抱きしめて、亡きリシュの親友に思いを馳せた。



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