誰にも届かない
...13


そしてまた二人に朝が来た。
カーテンを開けたら、空は曇っていた。
リシュが起きたら、シャイレは灰色の空を眺めていた。

「おはよ」
『……おはよ……』

リシュの微笑、シャイレの無表情。
何も変わらず、一日は始まった。

リシュが、お姉さんぶりを発揮し、シャイレが始終硬直状態に陥る朝食も終えた。
二人は、部屋に戻った。これからどうするか、を話し合うことにしたらしい。

「行くところがないならさ、ここにいてもいいんだよ?」

「……」
「嫌なら……いいんだけどさ」

シャイレはフルフルと首を振った。

『……本当に、いい、のか……?』
「もちろんです」
『……何も、できない……のに……』
「大丈夫です。できることきっとあります」

シャイレは、真っ直ぐリシュを見た。
リシュはいつもの微笑みを浮かべた。

答えは決まっていただろうに、何か考えていた。

『……ありがと……』

シャイレは、何度目になるかわからないお辞儀をした。
顔を上げたら、また前髪が片目にかかった。

それから、二人は何も言わずに部屋にいた。
静かな時を、静かな空気を共有していた。

曇り空からのそんなに明るくない光が、リシュに、シャイレにぼんやり射す。
リシュの何か不安そうな顔が曇り空に合っていた。

そんなリシュに気づいていたシャイレは、何を言っていいかわからずにいた。
何も言えないので、チラッとリシュに視線を移しては戻していた。


突然ドアをノックする音が聞こえた。
リシュが伏せていた顔を上げる。

ドアは開かずに声だけが聞こえてきた。

「リシュ、ちょっと……」

先生の声だった。その声に、かなりの重さを感じた。

リシュがさっと立ち上がる。
先程より増した不安を募らせながら部屋を出て行った。

リシュのあまりにも不安そうな様子が心配らしいシャイレも後を追った。

玄関ホールのようなところに来た。
それなりに広々としている。
豪華という形容より、暖かいという形容があう雰囲気だった。
何もかもを暖かく受け入れる、という雰囲気だった。

シャイレは最初、何故か裏口からコソコソ入ったので、ここに来るのは初めてだった。
相変わらずの無表情のままキョロキョロしていた。

ホールの入り口付近。
白い布が敷かれていた。

その上に乗せられていたのは、リシュが一番見たくないものだった。



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