漠然と、何処だかもわからない場所にシャイレはいた。
何故だか何処だろう?と考えさえしなかった。
そして目の前に、誰かいる。
ショートのブロンド、水色に近い青い瞳。
活発な雰囲気がありありと伝わってくる、ハツラツとした表情。
「……あなたは……」
ぼんやりとシャイレは呟いた。
自分が話せているという不思議な事実に気づきはしなかった。
目の前の少女は、フフン、と笑った。
「君はいつも寝付けないみたいだけどね。
いつもいつも同じ夢しか見ないらしいし。しかも毎晩?
でも、今夜だけは、君の夢に乗っ取らせてもらうよ。……ね」
最後の一言は、少しイラズラっぽい感じを含ませて、少女―ルラは言った。
「……夢……」
またぼんやりとシャイレは呟く。
「シャイレ君、君は記憶がないんだって?」
シャイレはコクリ、と頷く。
「大丈夫。私が予言しよう。すぐに取り戻せる。
手がかりは、いつもすぐ傍にあるんだよ。
後ね、空を眺めるといいよ。……ね」
また、最後の「……ね」で語尾が上がった。
きょとん、とするシャイレ。
無表情のまま首を傾ける。
「最近、あまり上を向かないみたいじゃない。
記憶を失う前も、今も……綺麗な空が広がっているじゃない。……ね」
唖然としたままのシャイレ。
何か引っ掛かる気がする、それでもそれが何なのかわからない。
考えあぐねていると、突然思い出したかのようにルラが話し出した。
「ベッドは、そのまま使ってていいからね。もったいないから」
更に唖然とするシャイレ。
思いつく言葉も、思い浮かぶ言葉もなかった。
ただ、言われたことだけが反芻していた。
「君は、せっかく綺麗な顔してるんだから……顔を上げて、前を向いて。……ね」
言われて少し、顔を上げる。完全までとはいかないが。
潤んだような青い目が、光を受けて輝いていた。
「リシュを、宜しくお願いします」
シャイレの空のような透き通った青い目を、見つめてルラは頭を下げた。
つられたのか、了解したのか、シャイレも頭を下げた。
「…………」
目が覚める。
次第にはっきりとしてくる意識。
自分が、何か重要な夢を見てしまったらしいことに気づく。
リシュに伝えなくては!
という感じに、ガバッと起き上がるシャイレ。
隣のベッドを見る。
リシュはいない。
ベッドから降り、コートを着て部屋を見回す。
リシュはいない。
嫌な予感がして、食堂まで走るシャイレ。
リシュの姿はなかった。
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