誰にも届かない
...15


漠然と、何処だかもわからない場所にシャイレはいた。
何故だか何処だろう?と考えさえしなかった。
そして目の前に、誰かいる。

ショートのブロンド、水色に近い青い瞳。
活発な雰囲気がありありと伝わってくる、ハツラツとした表情。

「……あなたは……」

ぼんやりとシャイレは呟いた。
自分が話せているという不思議な事実に気づきはしなかった。
目の前の少女は、フフン、と笑った。

「君はいつも寝付けないみたいだけどね。
いつもいつも同じ夢しか見ないらしいし。しかも毎晩?
でも、今夜だけは、君の夢に乗っ取らせてもらうよ。……ね」

最後の一言は、少しイラズラっぽい感じを含ませて、少女―ルラは言った。

「……夢……」

またぼんやりとシャイレは呟く。

「シャイレ君、君は記憶がないんだって?」

シャイレはコクリ、と頷く。

「大丈夫。私が予言しよう。すぐに取り戻せる。
手がかりは、いつもすぐ傍にあるんだよ。
後ね、空を眺めるといいよ。……ね」

また、最後の「……ね」で語尾が上がった。

きょとん、とするシャイレ。
無表情のまま首を傾ける。

「最近、あまり上を向かないみたいじゃない。
記憶を失う前も、今も……綺麗な空が広がっているじゃない。……ね」

唖然としたままのシャイレ。
何か引っ掛かる気がする、それでもそれが何なのかわからない。
考えあぐねていると、突然思い出したかのようにルラが話し出した。

「ベッドは、そのまま使ってていいからね。もったいないから」

更に唖然とするシャイレ。
思いつく言葉も、思い浮かぶ言葉もなかった。
ただ、言われたことだけが反芻していた。

「君は、せっかく綺麗な顔してるんだから……顔を上げて、前を向いて。……ね」

言われて少し、顔を上げる。完全までとはいかないが。
潤んだような青い目が、光を受けて輝いていた。

「リシュを、宜しくお願いします」

シャイレの空のような透き通った青い目を、見つめてルラは頭を下げた。
つられたのか、了解したのか、シャイレも頭を下げた。


「…………」

目が覚める。
次第にはっきりとしてくる意識。
自分が、何か重要な夢を見てしまったらしいことに気づく。

リシュに伝えなくては!

という感じに、ガバッと起き上がるシャイレ。
隣のベッドを見る。
リシュはいない。

ベッドから降り、コートを着て部屋を見回す。
リシュはいない。

嫌な予感がして、食堂まで走るシャイレ。
リシュの姿はなかった。



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