誰にも届かない
...12


シャイレの首は上下に微かに揺れて、寝てしまったかのように見えた。
それでもリシュが部屋に戻ってくるとすぐに顔を上げた。

シャイレが何か尋ねたそうにリシュを見る。
いつものように、リシュはそんなシャイレの気持ちを察して、隣に座った。

『……ホープウェイって、どんなところ……?』

相変わらずのポツリポツリとした話し方で、シャイレは尋ねた。

「今は……壊滅状態、かもしれないね……

自分達の居場所を奪われそうになったわけだから……
ホープウェイの人達も、多少は反撃したみたい……
……あまり争いは好きじゃないみたいだけど。

でも、それこそ無差別にその人達は、殺されてしまった……。

何もできずに佇んでいる人達も、誰かを守ろうと必死になった人達も。

殺されるか……奴隷にされた、みたい……」

シャイレの伏せた目。いつもは無表情なその目が、疲れた風に見えた。
その時の目は、リシュでなくてもそういう風に見えたであろう。

『でも、軍事施設に入れられた話なんて聞いたこと、あるか……?』

「……ないなぁ……」

即答だった。
ホープウェイの人が軍事施設に入れられたら、自分の国を壊す為の訓練となってしまう。

『そう、だよな……。
俺は、何者なんだろう……?』

部屋に、フゥー……というシャイレのため息が聞こえた。

『どうあがいても……あの時のことしか思い出せない。
あの時の痛みも、あの時の光景も、はっきり……覚えてるのに……』
「シャイレは……楽しい記憶、ないんだね……」

シャイレは、遠くを見た。壁に阻まれても、もっと先へと伸びる視線。
軽く眉を寄せる。
必死に思い出そうとしているのに、ただ頭の中には空白。

声を失くしたその時と、ただひたすら心を無にして、感情を無くして過ごしていた訓練の日々。

他に思いつくものなどなかった。

何か重いものを乗せられたようにがっくりうなだれるシャイレ。
青い目に映った失望が物悲しかった。

気がつくと、リシュが心配そうに見つめていた。

シャイレはそれを見て、唇をもごもごさせた。
また必死に笑おうとしているのに気づいたのは、リシュだけだろう。

リシュは心配させてしまったのを悪いと思って、笑顔を作ろうとしたことにも気づいていた。

「部屋ね。燃えちゃった部屋もあるから、足りないの。空いてる部屋がないんだよ。
この部屋で平気?」

シャイレはこくりと頷いた。
かなりの人見知りのようなので、願ったりかなったりだったのかもしれない。

「ルラ、夜に帰ってくるかもしれないから……ベッドは使えないかな?」

シャイレに対してと自分に対して呟いて、収納から毛布を出した。
「ごめんね」と一言、毛布を差し出した。
シャイレは、首を横に振り頭を下げて、毛布を受け取った。

『……帰って、来ると……いいな。』

相変わらず途切れ途切れの言葉を発して、シャイレは首を傾けた。
長めの前髪が、シャイレの片目を覆った。



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