誰にも届かない
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シャイレは……ただリシュの茶色い髪を見つめていた。
琥珀のような茶色い目はまだ潤んでいた。

ようやく涙が治まったところで、リシュの施設に向けてまた歩き出した。

シャイレは、グッと俯いたまま歩いていた。
必死に傷を隠そうとしていた。
リシュはそんな不安そうに歩くシャイレに寄り添うように歩いていた。


施設の裏まで来た時、二人は立ち止まった。

「ちょっと待ってて!」

そう言って、リシュは施設に入っていった。
数分でシャイレの元に戻ってきた。

「あの……ありがとね……」

そう言ってリシュは、綺麗なバンダナを差し出した。

シャイレは少し驚いたように、一切の動きを止めた。
ただ、リシュの目を見ていた。

「大事なバンダナ……借りちゃったから……」

シャイレは、ペコリと頭を下げた。

『……ありがとう……』

という言葉がリシュに届いた。
シャイレは手馴れた手つきでバンダナを結んだ。

「入って! 外少し寒かったし……」

そう言ってリシュはシャイレを招き入れた。

施設に入ると、背の高い、牧師のような人が立っていた。

「この方が助けてくれたんです!」

「そうなのですか……」

リシュの言葉に、その人は微笑んだ。
その微笑みをシャイレにも向けた。

「リシュを助けていただき、ありがとうございました」

シャイレは、深々とお辞儀をした。


『……礼には……及びません』

その言葉は、リシュにしか届かなかった。
リシュは、シャイレに微笑みかけると、牧師のような人――先生に尋ねた。

「あの先生……ルラは……?」

「それが、まだ戻ってきていないんです。
他の子供達は戻ってきたのですが……」

「……そうですか……」

少し、落ち込んだような表情になった後、シャイレにいつもの笑顔を向けて、
「私の部屋……こっちなんだ!」
とシャイレを、部屋に誘導した。

リシュの部屋は、二人部屋だった。
少し広めの部屋。綺麗に整頓されていた。

「私の部屋は……無事だったみたい。」

シャイレがリシュのほうを見る。

「ルラは……あの友達。」

シャイレが、コクリと頷く。

「何か……心配だな……」

シャイレがまた頷いた。

「帰って……来るよね!」

シャイレは大きく頷いた。

そして二人は……静かな時を過ごしていた。
昔の話をしようにも、お互い全て話していたし、シャイレは、話せる過去がなかった。
だから、シャイレの失われた記憶を模索しようとした。

『あなたは……アースウェスの人なのか……?』
「うん。そうだよ。」
『俺は……ずっと、アースウェスの軍事訓練場にいたけど……

……本当に俺は……アースウェスの人間なのか……?

こんな容姿の奴……自分しかいない気がして……

この髪の色で、この目の色のアースウェスの人なんて……見たことあるか……?』

「うぅーん……ないかもしれない……
空を見ていたあの人は……銀髪で……青い目だったけれど……」
『その人……何処の人、だった……?』
「うぅーん、今考えるとね……あんなに隠れた場所に家があるのに……
襲撃にあってしまった……アースウェスかイースタンの人では……そんなこと……」

『……そうだよな……? 道に出ているか……兵士でない限り……そんなこと…………
でも……俺も、その人も……家に襲撃された……』
「……ホープウェイの……人……?」
『そう……なんだろうな……じゃあ……何で、俺は……』
「……わからない……」

……そこで……推理は止まってしまった。シャイレの謎は謎のままだった。



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