※「そうして世界はまわってる」の続き



どうしてこうなった。

「食べないのか?」
「食べたいんで、下ろしてくれます?」
「何故だ。ここは人気があるんだぞ」
「いや、人気あるので本当に遠慮したいんですけど」
「遠慮するな。一人でここに座れるって特別なんだぞ」
「ジャーファルさん!!」
「シン……ユーリが嫌がっているので下してあげたら」
「いいだろ。ユーリも嬉しがってるんだし」
「嫌がってるんです!シンさんの膝の上なんて!!」

ユーリが叫ぶがそれはすぐに宴の喧騒に消える。
ユーリは今、シンドバッドの膝の上というある意味人気な場所に一人で座っていた。

片手には杯、片手でユーリの腰を抱いているシンドバッドはユーリが暴れるとその拘束を強くするので暴れることも出来ず、さっきから口で下ろせと言っているのだが、この酔っ払い、嫌よ嫌よも好きの内だと思っているのか嬉しがっていると勘違いしている。

ジャーファルもユーリに口沿いしてくれるが、ジャーファルの言う事ですら耳を貸してくれないのだ。
しかも、無数に女の子を侍ないのでいいと思っているような考えが伝わって来る気がしている。
ちなみにさっきまでいた女の子達は今はスパルトスの周りにいる。

シャルルカン達はわざわざこんなところまで付いてきて、膝の上のユーリを見て肴にしている。
それがとてつもなく腹が立って仕方ない。
ユーリとしてはこんなところを見られればシンドバッドに気持ちを寄せる乙女達がどう思うかが怖くて楽しむ余裕がないけれどもシンドバッドは楽しそうだ。それが更に腹が立つ。

「ほら、飲めユーリ」
「私あまり飲めないのを知って……」
「一杯だけだ。それにまだ飲んでないのだろう」
「うっ……」

侍女からお酒を受け取ると、シンドバッドはそれをユーリに渡す。受け取るのを拒むが、無理矢理持たされて飲めと言われる。

ジャーファルを見るが横に首を振るだけで、ユーリは渋々口を付ける。
一口飲んでから無理だとつっ返そうと思っていたが、口に含むと果実の甘い味が口いっぱいに広がった。

「……おいしい」
「だろう。ユーリも飲めるものをと思って探してきたんだ」

どうやらわざわざユーリのために用意してくれたものらしい。
その気持ちが嬉しくて、ユーリがまた杯に口を付ければシンドバッドは満足そうに笑う。

そこまで度数が高くないらしいお酒を飲みながら、バルコニーの下を見れば人々が楽しそうに飲んで食べて大騒ぎしている。

いつの間にかジャーファルや、膝の上のユーリを笑っていたシャルルカン達は離れた席で飲み食いしている。
宴の最中だというのに、ユーリとシンドバッドのところだけ何故か遠い気がした。

「……ユーリはこの国が好きか?」
「へ……?」

シンドバッドの言葉にユーリは首を傾げる。
なんで今更そんなことを聞くのかが分からなくてシンドバッドを見上げれば、シンドバッドは真面目な顔をしてユーリを見下ろしていた。

シンドバッドが何を考えているかユーリはよくわからない。
ただ民のために、国のために動いているのだけは知っている。
そのためにあまり褒められないことをしていることも。
ユーリはただ表だけを見ていて、シンドバッド達もユーリには表しか見せない。
それはユーリがよそ者だからか、それともユーリに見せたくないものなのかは知らない。
ユーリからは深く聞くことはないし、シンドバッドも上手く避けている。

「私は好きですよ、この国」

シンドバッドがどういう意味で聞いているのかわからないけれども、譜面通りに意味を拾うことにする。
もしもっとシンドバッドの意図することがあったとしても、そしてユーリがもっとこの国の深いところに触れたとしてもこの答えは変わらないだろうが。

見下ろせばこの国の国民が見える。
楽しげなその様子を見て、嫌いだと誰が思うのだろうか。

「皆優しくて、笑顔が素敵で。だから私はあなたの国が大好きですよ、シンさん」
「……そうか、ありがとう」

もっともっとシンドリアが好きな理由はあるけれども恥ずかしいから言わないことにした。
この国の良さを褒めることは目の前の人を褒めることになるから。

どこかホッとしたようなシンドバッドにユーリは釘を刺すことを忘れない。

「あとは王様が仕事をさぼらなければ、もっと」
「……」

押し黙ったシンドバッドにユーリは笑う。
近くのテーブルの水差しを取って、杯に注ぐとシンドバッドに手渡す。

「そろそろお酒は控えてくださいね。あまり飲むと明日堪えますよ」
「ますますジャーファルに似てきたな……」
「私もジャーファルさんもシンさんのこと心配してるんです」

怒ったように言えば、シンドバッドはわかったと渋々水を飲む。
宴も終わりに近い。辺りに出来上がった者が転がっていて、明日は二日酔いに苛まれるのだろう。それもまた宴の醍醐味だろう。

目の前で花火のようなものが上がって、宴は最高潮に達する。
それをシンドバッドと笑い合いながら見ていた。


それでも僕らは幸せと呼ぶのだろう
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お題:)sappyさん
12/12/17 緋色来知






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