※現代パロなので注意
※夢主→大学生。シンドバッド宅に居候
 シンドバッド→シンドリア社長兼売れっ子冒険作家
 ジャーファル→シンドリア社長秘書
 アラジン、アリババ、モルジアナ→ジャーファル宅に居候 



 ユーリだって一目見ればわかるほど立派で家賃がきっと気が遠くなる額なんだろうな、と思う部屋に似つかわしくない大きな長方形のコタツ。
 うっかりこの時期はコタツが一番だと口を滑らせた次の日、コタツを買ったのだと自慢げに言われた。残念ながらコタツを買った本人はもうすぐ新年を迎えるというのに、ジャーファルの監視の元で書斎で原稿を書いている。もちろんコタツに入ってミカン食べながら紅白を見るなんて出来るわけもない。
 このコタツ、いや部屋の持ち主シンドバッドは世界でもトップクラスの企業であるシンドリア社社長兼作家なんてやっている。ジャーファルはその社長秘書なわけで作家の方はノータッチだったが、作家業の担当がシンドバッドが締め切りを何度目か破った時に胃に穴を開けてからは、ジャーファルが担当がせっつく前にせっつくようになったのだとか。
 今回もシンドバッドはまた堂々と締切を破り、ジャーファルの監視下に置かれた。そのため、シンドバッドの表向きは家族、その実態は居候のユーリは年越しをアリババとアラジン、モルジアナと過ごすことになった。
 ジャーファルに世話になっているアリババとアラジン、モルジアナはまだ子供なので部屋に三人で居させるのは嫌だとジャーファルが考えた結果だ。
 ユーリとしても一人で新しい年を迎えるよりも一緒に誰かが居てくれたら嬉しいし、可愛いユーリの弟分、妹分となればこっちから歓迎する。

 とはいえ、小学生のアラジンはすでに船を漕いでいるし、中学生とはいえモルジアナもたまにうとうとしている。前に深夜のバイトは給料が高かったと語っていたアリババはまだまだ余裕らしく、ミカンを剥いて丁寧にすじを取っては口に入れている。
 うとうとしているモルジアナがハッとしてから、書斎の方を見る。
 紅白も終盤だが、夕食後に書斎に籠ったジャーファルはそれから出てきてはいない。シンドバッドはジャーファルが食事を持っていってたので、その前からだが。

「……ジャーファルさんはまだでしょうか」
「うーん。シンさん全然書いてなかったみたいだしね」
「ジャーファルさんかなり怒ってたもんな……」
「シンさんがなかなか学習しないから」

 ジャーファルの剣幕を見て怯えるアリババにユーリはため息を吐く。

 毎回、シンドバッドはああなるまでやらないのだから。
 アリババという著書の大ファンが近くにいるのだから、ちょっとは真面目にしたらどうかとユーリも思うが。アリババもアリババで、あんなシンドバッドを見ても尊敬する心は変わらないらしい。ユーリなんてたまにシンドバッドの著書に思うところがありつつも、シンドリア社長としてそして作家として活躍するシンドバッドを尊敬していたが、実物を見て一気に吹っ飛んだのに。ユーリの場合、出会いが出会いだったが。

 モルジアナの言葉にアリババも心配になったのか、書斎の方を見る。
 子供に甘いジャーファルが三人とも大好きで、ジャーファルもこの三人が大好きだ。年末の(主にシンドバッドが引き起こした)ゴタゴタにシンドバッドのコレ。もう精神的にかなりヤバいだろうジャーファルを想像してユーリはコタツを出る。

「シンさんにコーヒー持っていってくるね」「あ、はい」

 ダイニングから続く勝手知ったるキッチンでコーヒーメーカーをセットして、冷凍庫を物色する。冷凍食品の焼きおにぎりを取り出すとレンジに突っ込んで裏にかかれた時間にセットしてチンする。
 本当は消化にいいうどん辺りがいいだろうし、冷凍うどん自体はちゃんと冷凍庫に入っている。だが、シンドバッドが執筆に集中しているのなら声を描ければ邪魔になってしまう。声を掛けられずにいればうどんは冷めるし、伸びてしまう。それなら冷めても食べれるおにぎりの方がいい。それにおにぎりなら執筆しながらでも食べれるだろう。ちなみに年越し蕎麦はシンドバッドのあの様子では一緒に食べれないだろうと、既に夕食で食べている。アラジンが船を漕いでいるし、本当に揃って食べられなさそうなので、ユーリの感という名の経験も伊達でない。
 コーヒーと焼きおにぎり。もうちょっと何かなかったのかという組合せをトレーにのせると、ダイニングを後にする。

 書斎の扉をノックすると、どうぞというジャーファルの声がした。
 中に入れば、ジャーファルが会社の資料であろう書類を見ながら座っている。その奥に書斎というに相応しい立派な机と椅子に座るシンドバッドがいた。
 頭を掻きながらシンドバッドはパソコンに打ち込んでいる。余程集中しているのか、ユーリが入ってきたことすら気が付いていない。

「ユーリ」
「代わりますよ。今年はアラジン達と新年を越すんでしょう? それでカウントダウンが終わったらアラジン達寝てください。でもコタツで寝たらダメですよ」

 書類から顔を上げたジャーファルがユーリの言葉に顔を曇らせる。

「ですが……ユーリが大変でしょう」
「私、実はシンさんの頑張ってるところ見るのが好きなんですよ」
「それは嘘でしょう」
「バレましたか。まあ、シンさんの頑張ってるところなんて興味ありませんけど、シンさんには恩がありますから、それをちゃんと返したいんです」

 ユーリの嘘はジャーファルに間髪入れずに嘘だと言われた。実際にカッコいいと思うときもあるし、これが大企業の社長かと思うときもある。けれどもこうやって何故ギリギリに頑張らなくてはいけないのかというところを見ると、微妙になるのである。
 それでもユーリを引き取ってくれたシンドバッドには沢山恩がある。一生掛かっても返すことの出来ないと思うぐらいの恩だが、それでもユーリはその恩に報いるためにもシンドバッドの役に立ちたい。

「……ちゃんと返せていますよ」
「えっ?」
「いいえ、なんでもありません。それではお言葉に甘えさせてもらいますね」

 ジャーファルの言葉が聞き取れず、聞き返すがジャーファルは頭を振る。
 言わないと言うことは大したことでもないのだろうと、ユーリはすぐに大事なミッションの方に目を向ける。

「シンさんはちゃんと見張っておくんで!」
「くれぐれもお願いしますね」
「はい」

 書斎から出ていったジャーファルは恐らく子供たちとコタツで寝てしまうだろう。
 もしくはアリババがなんとかコタツから客間に三人を連れていくか。どちらにせよ、あとで一度居間に様子を見に行っておいた方がいいだろう。

 コーヒーをシンドバッドがいつもコーヒーを置いている辺りに置こうとすれば、シンドバッドの飲み掛けの冷めたコーヒーが置いてあった。
それと交換すると、隣に焼きおにぎりも置いておく。

 ジャーファルが腰を掛けていた椅子に腰を掛けると、シンドバッドの集めた本の中の一冊を適当手に取る。
 書斎の壁はすべて棚が置かれて、その棚にはシンドバッドが集めた本がところ狭しと並んでいる。シンドバッドを表すように、本の種類は古今東西、ユーリだって知っている作家のものからマイナーな民族の本、何世紀も前に発行されたものまで。中にはかなり貴重な本もあるというので、比較的手前の最近発行されたものを手に取るようにしている。

 ページを一枚捲ってしまえば、すぐに物語の世界に入ってしまう。
 しばらく読み進めていると、急に現実に戻される。名前を呼ばれたのだと理解すると、本から顔を上げると視界に入った顔が苦笑する。

「その本はどうだい?」
「まだちょっとしか読んでないから、なんとも。で、原稿は?」
「もう終わりだよ」

 さっきまで執筆に集中していたシンドバッドはいつの間にか休憩に入っていた。
 ユーリの持ってきた焼きおにぎりは既になく、もうシンドバッドが食べたらしい。シンドバッドが手にしているコーヒーからはまだ湯気が上がっていて、それほど時間は経っていないようだ。ユーリの持つ本もそれほどページは進んでいない。

 時間を確認しようと棚の一つに掛けられた壁時計を見れば、すでに新しい年を迎えている。
シンドバッドもそれに気がついているようで、同じように壁を見て手に持ったカップを机に置く。

「明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとう」

 お互いに頭を下げて新年の挨拶をする。

「それじゃ、仕事してください」
「新年早々にそれはないだろう」
「新年に仕事を持ち込んだシンさんが悪いんですよ。ほらっ」
「わかった、わかった」

 ユーリがせっつけば、シンドバッドは渋々スリープモードにしているノートパソコンに向かう。
 それを見張っていると、シンドバッドが思い出したように顔を上げる。

「そうだ、ユーリ」
「はい? なんですか?」
「今年も宜しくな」

 シンドバッドがそう言って目を細める。ユーリが好きな、経営者や作家として外用のものではなく、シンドバッドと個人的に親しい人達、シンドバッドの身内と呼ばれる人達にだけ向ける笑顔だ。

「……こちらこそお願いします」

 何となく気恥ずかしくて、口の中でゴニョゴニョという風に答えたが、きちんと聞こえていたらしい。少しだけ肩を竦めてから、シンドバッドは今度こそ執筆を再開した。
 ユーリはそれを見届けてから、また手元の本に視線を落とす。

 新年からシンドバッドはこの調子だが、シンドバッドの身内に入ったのならこれが通常運行だ。また一年、ジャーファル程とは言わないが、シンドバッドにかけられる迷惑もきっと大変だろうが、きっとそんなに迷惑じゃない。

 だって、迷惑を掛けるのも家族なのだから。




いつでも僕らの側にあったもの
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お題:)sappy
2013/01/04 緋色来知

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