ユーリがこの世界に来てだいぶ経つが、ユーリは今も帰れる方法を探している。
ただ、異世界から人がやってくるなんて滅多にない。というか、聞いたことがないらしく、古い文献を漁っているがそんな記述は全く見つからない。
マギだって知らないというのだから、八方塞がりもいいところだ。

それでも諦めきれなくて色々な本を見ていたら、歴史が面白いことに気が付いた。
学校の授業は年号を覚えるだけだったけれども今は学校の授業ではないのだ。まるで壮大な物語のような歴史を知ってしまえばその虜になるのは簡単だった。

ユーリが歴史にハマったことを知ったジャーファルは色々な国の歴史書を勧めてくれたが、何故かシンドバッドの冒険だけは勧めてくれなかった。むしろ読んではいけませんとまで言われてしまった。
シンドバッドの書いた冒険譚がこの国の建国の歴史に関わるのに。

シンドバッドの冒険はアリババの憧れで、アリババが迷宮攻略に憧れたのはその冒険譚を読んだからだという。普段の姿からすれば全く想像出来ないが、シンドバッドはその昔初めて迷宮攻略を成し遂げた人らしい。
こんなに近くに偉人がいるのに、その著作を読まないというのはもったいない。

シンドバッド本人に聞けばいいのにと、アリババには言われたが、前にさりげなく冒険のことを聞いたら教えてくれたが、ジャーファルに凄かったんですねと言えば、二百パーセントくらい脚色されていることを教えてもらったので、本人には聞かないことにしている。



「…………」

こっそり図書館でシンドバッドの冒険を読めば、ジャーファルが勧めない理由がわかった。
ジャーファルがいつの間にか火を吹く怪獣になっているし、マスルールに至っては巨大化までしている。きっと書くネタがなくなってしまったのだろう。
そりゃジャーファルは勧めないよね、そう思いながらも全て読みきる。

改めてシンドバッドに聞くのは止めようと学んだところで、どうしようかと考える。
ちゃんとシンドバッドの冒険を知りたいが。

「忙しそうだから、ジャーファルさんに聞いたら迷惑かなぁ」
「何をです?」
「うわぁ」

後ろから聞こえた声に肩を跳ねさせて振り返れば、そこにはジャーファルが立っていた。
驚くユーリに不思議そうな顔をしていたが、ユーリの手元にある本のタイトルを見て、眉を顰める。

「ユーリ……」
「だって、気になってしまったんです……」

いけないと言われたことをしたことがバレて、ユーリは顔を反らす。

「気になって読んでしまったらわかりましたか。私が勧めない理由が」
「よくわかりました。わかりすぎるくらいに、ええ」
「だから言ったんですよ」

ジャーファルはユーリのために言ったのに、それを無視してしまったことが後ろめたい。
ため息をひとつ吐いてから、ジャーファルはユーリの頭を撫でる。

「シンドバッドの冒険を知りたければ私に聞けばいいんですよ。いくらでもお話してあげますよ」
「本当ですか?」
「ええ。終業したらいくらでも」

ユーリがお願いします!と言えば、ジャーファルは頷く。
けれどもすぐにジャーファルは真顔になって、

「でも、それまではシンの監視をお願いします。私はやらないといけないことがあるので、あの人の監視まで手が回りそうにないので」
「了解です!ばっちり監視しておきます」

ユーリが元気よく返事をすれば、ジャーファルは笑ってお願いしますねと言った。


◆◇◆◇◆◇◆◇


終業までシンドバッドの仕事を手伝うという名の監視をしていたユーリは、シンドバッドや他の官吏にきっと怒っているのだと思われたまま部屋を後にした。
ユーリとしてはジャーファルと約束したシンドバッドの冒険の話を早く聞きたくて楽しみでたまらない様子だったのだが、シンドバッドからすれば今日のユーリは何か怒っているのか、シンドバッドに休む間もなく仕事を押し付け、いつもなら軽いおしゃべりくらいなら付き合ってくれるのに、今日は一言でも喋ろうとすればユーリに睨まれて、ひたすら仕事をすることになった。

ユーリが出て行くとシンドバッドは机に沈み、終業なので飲みに誘いに来たシャルルカンとそれに巻き込まれたマスルールがぼそっとシンドバッドに聞く。

「何したんスか」
「ジャーファルさんが乗り移ったみたいだった」
「……全く記憶にないんだが」
「早く謝った方がいいと思うっス」
「同感」
「何に怒っているかもわからないのに謝ったらまた怒るだろう。ジャーファルに聞いてみるか」

そんな会話が交わされていたことも知らず、ユーリはジャーファルの元に向かっていた。




辞書を開いても出てこない
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お題:)sappyさん
12/12/17 緋色来知


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