「え、葉っぱ一枚?」

ユーリはアラジンの言葉を繰り返す。
アラジン達と話をしていたら、アラジンとモルジアナがシンドバッドに出会った話になり、聞いていると信じられない言葉が聞こえてきた。

「そう。シンドバッドおじさん金属器どころか服まで盗まれちゃって。それで葉っぱ一枚で」
「それが初対面なら凄い初対面だな」

アラジンは笑って、アリババ驚いて、モルジアナは俯いている。
アラジンも出会ったときは驚いたらしいが、服まで盗まれたことや、その後にホテルの代金を払ってくれたこともあって、一番は時間が経ったからだろうが笑い話に彼の中になったらしい。
とはいえ、モルジアナは多感なお年頃に出会った出来事である。アラジンだってまだ子供だ。もし悪影響を受けたらどうするのだと、ユーリは心の中で怒りが湧き上がる。

ユーリの怒りに気が付かず、アラジンとアリババは話を続けて行く。
アラジンとアリババ、モルジアナの出会いの話に変わって、モルジアナがようやく顔を上げる。三人の出会いをユーリは聞きながら、シンドバッドに出会ったら一発殴ることを決めた。





「シンさん!」
「ユーリ!?」

廊下でジャーファルとマスルールを連れたシンドバッドに出会う。
足早にシンドバッドに近づくと、ユーリは拳を振り上げる。

けれどもユーリの拳はシンドバッドにあっさり避けられてしまう。
驚いてはいるが、さすがは七海の覇王といったところか。
それでもユーリは一発入れないことには気が済まず反対の手を振りかぶれば、シンドバッドの前に出たマスルールに手首を掴まれて止められる。

「どうしたんですかユーリ!?」
「止めないでください。私、シンさん殴らないと気が済みません!」
「なんだユーリ。俺が何をしたって言うんだ」
「シンさんが言うと説得力がないっスね」

ユーリの行動にジャーファルは驚くが、マスルールは全く驚いた様子はない。そう思ったが、少しだけ目が動揺に揺れていた。
ユーリを掴むマスルールの手にはほとんど力は込められていないが、ユーリがどれだけ抵抗しても外れることはない。力が込められていないことがマスルールのユーリへの信頼だろう。八人将はシンドバッドのことを本当に大切に思っているから。

「聞きましたよ!シンさんはアラジンとモルジアナに出会ったときにほぼ全裸で声かけたらしいじゃないですか!あの子達まだ子供なんですよ!モルジアナに至っては女の子なんですよ!悪影響を与えたらどうするんですか!トラウマになったらどう責任取るんですか!この露出狂!変態!」
「…………シン」
「…………」

ジャーファルの冷たい目線がシンドバッドに突き刺さる。
どうやらジャーファルとマスルールにはアラジンに服を借りたという話をしたが、ほぼ全裸で出て行った話はしていなかったらしい。

マスルールがユーリを掴むのを止め、シンドバッドの前からどいてくれる。

「おい、マスルール!?」
「すいません。今回ばかりはユーリが正しいと思うんで」
「おとなしく一発殴られてください、シン」

それどころか、ジャーファルとマスルールはシンドバッドの両脇を固めてくれる。
聞いた話では金属器を盗まれた状態で、バルバッドの出来ごとに巻き込まれ困ったことになったという。
それを考えればジャーファルとマスルールとしてもここで一発殴られても構わない、むしろ大歓迎と思うだろう。

ユーリが腕をグルグル回して予備運動に入れば、シンドバッドは冷や汗を流し始める。
そんな上司を冷ややかな目で見ながら、ジャーファルは追い打ちを掛ける。

「大丈夫ですよ、ユーリは剣術が得意ですし」
「バザールで起きた騒ぎも一人で片づけたくらいっスから」
「全然大丈夫じゃないだろ、それ!?」
「大丈夫ですよ、私か弱い女の子ですし」
「それはか弱い女の子の準備体操じゃないだろう!」

屈伸運動をするとユーリは準備完了と言うように、シンドバッドに向かい合った。

「ま、待てユーリ。俺は寝ていたら服まではぎ取られたんだぞ!」
「七海の覇王と呼ばれるシンさんがはぎ取られたのに気が付かなかったんですか?」
「そ、それは……」

シンドバッドの言い訳も大概オチは予想出来たけれども一応聞いてみた。けれどもシンドバッドはそこで言えなくなったらしい。
ユーリは拳を振りかぶると、その右頬をマスルール仕込みのストレートで遠慮なく殴った。






「どうしたんですか、その頬」
「…………」
「あぁ、気にしないでくださいヤムライハ。この人の自業自得ですから」

最後に入って来たヤムライハはシンドバッドの頬が腫れているを見て、思わずどうしたのかと聞く。すると答えは帰ってこず、むすーとした様子のシンドバッドにヤムライハは戸惑う。
その頬の理由を聞いていたピスティとシャルルカンはその言葉に笑い転げる。ヒナホホやドラコーンは笑い転げることはないが、その顔には笑みが浮かんでいる。
全体的に生温い空気が流れる室内でシンドバッドはさらに機嫌を悪くする。

ヤムライハはとりあえずジャーファルの言葉に頷いてから、その手に持っている物を思い出す。

「これをユーリから王にと」
「……ユーリから?」

ヤムライハは濡れた布をシンドバッドに差し出す。
ヤムライハがこの部屋に入る前に、ユーリからシンドバッドに渡してくれと頼まれたものだ。
なんだかユーリの様子がおかしかったので、どうもシンドバッドの頬が腫れているのはユーリが関係しているらしいとヤムライハは予想する。

シンドバッドは少し考えてから、ヤムライハから布を受け取る。
それを見て、八人将はほほえましいものを見るような目線を向けてから、各々席に付いて行く。
己の席に着く前にジャーファルが困ったようにシンドバッドに話しかける。

「これに懲りたら少しは自重してくださいね。ユーリはとてもあなたのことを尊敬しているんですから。もちろんアラジン君達のこともありますけど、シンのかっこ悪いところを聞いたのがとても嫌だったんだと思いますよ」
「わかっているさ。ユーリが俺のことを考えてくれていることくらい」

頬に濡れた布を当てて、シンドバッドは窓の外を見た。
そこにはシンドバッドの国のために働くユーリの姿が見えた。



大嫌いの裏側を覗いてみた
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お題:)sappyさん
12/12/05 緋色来知




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