外の用事を済まして王宮に戻ると巻物を持って廊下を歩くジャーファルが先の方に見えた。
走ると怒られるので、早歩きでジャーファルを追いかけると声を掛けた。

「ジャーファルさん」
「ユーリ」

持ちますよ、と言えば、ジャーファルは少しだけ巻物を持たせてくれる。
「女の子には持たせられません。それにだいぶ私も力があるんですよ」「いいえ、手伝います」と二人で巻物を持つか持たないかを言い合っていたのはだいぶ昔の話。
ヒートアップしたユーリとジャーファルのやりとりにそれを見たシンドバッドが仲裁に入ろうとしたが、誰の仕事を持って来ているんだと二人に怒られたというのは余談だ。

ユーリが半分よりも少し少ないくらいの量を持つことで一応決着している。ユーリとしてはもっと持てるし、ジャーファルとしては持たせ過ぎていると考えているが、これ以上は不毛だとわかっているので、とりあえず二人で持つことでいいことになっている。

「シンのところまでお願いしますね」
「はい。そう言えば、ジャーファルさんは休憩されましたか?」

ユーリがいなければろくに休憩せずに仕事をするジャーファルなので、こまめに休憩してもらうようにユーリは外に出る前に人に頼んだが、ジャーファルは休憩してくれただろうか。

ユーリが訪ねれば、ジャーファルは苦笑して。

「ちゃんと休憩をとりましたよ、わざわざユーリが皆に言いつけておいたそうですね。必死の形相で言われて驚きましたよ」
「今はそこまで忙しいお仕事もないと聞いています。休める内に休まないと、いつか体調壊しますよ」
「そうですね。また倒れてユーリを泣かせるわけにはいきませんし」
「本当にびっくりしたんですよ。二度としないでくださいね」
「わかっていますよ」

以前、ジャーファルが何日もろくに寝ずに仕事をしている最中に書類の山に倒れるように意識を失って寝てしまったことがある。
夜食を手にジャーファルの元に行ったユーリはちょうどそれを目撃して動揺して多泣きしたことがある。泣きながらユーリが揺さぶってもジャーファルが何の反応もしないので、仕事を抜けだしたシンドバッドがユーリの泣き声に気が付いて、ジャーファルが寝ているだけと教えてくれるまでは泣きわめいていた。
それからはジャーファルの体調管理もユーリの仕事の一つだ。

ジャーファルもユーリの取り乱しようはシンドバッドに聞いていて、なにしろ目覚めた途端にユーリが抱きついて泣きだしたこともあり、ユーリのこの忠告にはおとなしく従う。
もともとユーリをジャーファルは妹のように可愛がっているので、甘いのもあるが。

「失礼します。シン追加の書簡です」

シンドバッドの執務室に断りを入れて、ジャーファルに続いて入れば、シンドバッドが真面目に仕事をしていた。
スイッチが入れば、集中してシンドバッドは仕事をしてくれる。そのスピードは本当に早く、どうしていつも本気になって仕事をしないのかと、ユーリはいつも思う。

「あぁ。そこに置いといてくれ」
「はい。ユーリ」
「はい」

巻物を言われたところに置くと、それまで巻物を相手に何か書いていたシンドバッドが顔を上げる。
ユーリとジャーファルの顔を見比べると、シンドバッドは嬉しそうに笑う。

「どうかしましたか、シン?」
「いや、ユーリとジャーファルが似ていると言われてな」
「私とユーリが?」

ファナリスのマスルールとモルジアナは目元や髪の色、雰囲気など似ているところが多くて兄妹のようだが、ユーリとジャーファルはまったく似ていない。

ジャーファルと首を傾げてから、ふとこの間言われたことを思い出す。
ジャーファルが今のようにシンドバッドのところに言ったときに、そのまま部屋に残ってジャーファルに任された仕事をしているときにジャーファルの部下にも同じようなことを言われた。その理由が。

「顔よりも敬語使うところがじゃないですか。私も言われましたし」
「あぁ、そういうことですか」

ジャーファルがなるほどと言うように手を叩いた。

ユーリにこの世界の言葉を教えてくれたのはジャーファルだ。
そのためこの世界の言葉の見本はジャーファルだし、元からユーリが固い言葉を使っていたというのもあって、未だに親しい人でも敬語を使ってしまう。
たまに砕けた言葉も使うが、一度覚えてしまったものはなかなか変えることが出来ない。
元からユーリに変えるつもりがないというのもあるが。
なんせ、シンドバッドはこの国の王様だし、ジャーファル達は八人将と呼ばれるこの国の英雄である。アラジン達はマギとか王子だし。ユーリの元の世界からすれば総理に大臣、天皇とかそんな感じのユーリからすれば雲の上の人達になるのだ。
皆気さくな人達だが、ため口でいいよ〜と言われてもそんな人達にため口を使えるか!とう話である。
例え廊下でレベルの低い争いをしていても、何股かけても、酔っ払って酷い絡み方をされたときでも、女の子を膝の上に乗せて笑っている姿を見ても。

「仕事ばかりしているところとかだろうな」
「ジャーファルさんぐらい仕事してませんけど」
「何言っているんですか、ユーリもかなり働いてますよ」
「そうだ。仕事中毒が二人もいると飲みに行こうなんて言いづらいしな」
「それは誰かさんが仕事をしないのが原因でしょう」

ユーリとジャーファルの仕事はかなりをシンドバッドがさぼっていることによって増えている。
それを棚に上げて言うシンドバッドをジャーファルが責めるが、シンドバッドはどこ吹く風である。

「でも嬉しいですね」
「何がですか、ユーリ」
「私、ジャーファルさんを尊敬しているので似ているって言われると嬉しいです」

ジャーファルは本当にすごい。
シンドバッドや国のためにひたすら働く姿にユーリは前々から尊敬している。
そんな尊敬している人に言動とはいえ、似ていると評されれば嬉しいものがある。

そう言えば、ジャーファルが一瞬驚いて嬉しそうに笑う。

「私も嬉しいですよ。ユーリは妹のように可愛がってますから」
「私も実はジャーファルさんを兄のように慕ってました」
「そうだったんですか。それじゃあ、今日から兄さんって呼んでもいいですよ」

妹のように、そう言われてユーリは耳まで真っ赤にする。
ユーリにとってジャーファルさんは兄のような存在で、本人には迷惑かと思って言っていなかったが、ジャーファルも妹と思っていてくれていたらしい。

「俺のこともシンドバッド兄さんと呼んでもいいぞ、ユーリ」
「調子に乗らないでください、シンドバッドおじさん」
「おじっ……」

どうしてこの会話で入れると思ったのか、口を挟んできたシンドバッドをユーリが一刀両断すれば、シンドバッドは机に沈む。
机にのの字を書き始めたシンドバッドにジャーファルは冷たい視線を送るととどめを刺す。

「ほら、サボってないで仕事をしてくださいシンドバッドおじさん。さて、行きましょうか、ユーリ」
「はい、兄さん」

兄さん、そう呼べばジャーファルは嬉しそうに微笑む。
二人で頷きあってから、ジャーファルについて部屋を後にする。

ユーリが振り向けば、シンドバッドは顔だけ起こして、それを微笑んで見送っていた。
それに微笑み返してユーリはジャーファルの隣に並んで歩いて行った。


僕らのリトルワールド
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お題:)sappyさん
12/12/05 緋色来知





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