桜材の重々しい扉に、樫の表札。
黒々とした墨で“善木”と書かれている。
善木の本家へは何回も帰ったけど、慣れなかった。母は愛人のくせに
くそ爺の部屋に居座って、母親らしい事なんか何一つしてくれなかった。
くそ爺はくそ爺で、必要最小限の事しか干渉してこなかった。
3度の飯と風呂と服。あと、勉強だけはしつこくされた。
 
 だから。いとこの涼兄ちゃんが「一緒に来るか?」って聞いてくれた時は
このチャンス逃がしてたまるかってな感じでとびついた。
涼兄ちゃんはくそ爺のお気に入りだったけれど、
広い善木家のなかで唯一のうちの味方だった。
 干渉もほどほどに育ててくれて、涼兄ちゃんには本当に感謝している。
なにもかも信じられない!っていって自分の殻に
閉じこもっていた期間は終わりを告げた。
 
 
―ジー・ジー・・・―
 ベルを鳴らすと、家政婦のなんとかって人の声がした。
「善木です。どちらさまでいらっしゃいますか?」
「朱鳥です。善木朱鳥。雄三と知笑(ゆうぞう・ちえみ)の娘です。」
「えっっ・・・。」
 軽く沈黙が流れた。不協和音。
「ご、御当主をお呼びしてきます。」
 足音がして、少し後にぶつぶつ言いながら誰かがきた。
「朱鳥ちゃん?」
 ねっとりとした気持ち悪い声。間違いない。
「知笑、さん。」
「お母さん、でしょ?」
 うちの、実の母親、宮田 知笑!
彼女は建前上善木家の人間ではない。だから“宮田”のまま。
うちは養子という形で善木家の人間ということになっている。
歪んだこの家に。
家族になっている。
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