希望はない。 | ナノ

(03)


「あれ、最っ高にいやらしい笑みだったな。見たかよ、あん時のハゲの顔!」
『ちょっとうるさいよシュラ…』

燦々と夏空を照らす太陽が浮かぶのは、雲一つない青空。決して、天気予報士が言っていた曇り空なんかではなかった。
眩しいほどの光を全身に浴びて思う。もう絶対あの天気予報見ない。お天気お姉さんがあまりにも好みな美人さんだったために、日本に帰国してからというもの、ずっと頼りっぱなしだったが、こうも外れるのでは仕方がない。ぐっばいお姉さん。出直してきてくれ。
日向よりは何倍も涼しい木陰の下そう決心し、そろそろ行くかと荷物を持ち上げて日向に足を踏み出した。日差しが暑いとか、気にしない。気にしちゃいけない。

―――ミーンミンミンミーン………

「蝉、うるせーーー!」

私達は夏に嫌われでもしてるんだろうか。この虫の声を聞いてしまうと、一気に体力とやる気を持ってかれるような気がする。シュラの叫びも最もだ。これだから夏は苦手だ。
蝉の一生は、何十年も土の中にいて、その後、苦労して地上に出て脱皮をし、それから一週間鳴き続けて死ぬという。蝉の苦労はわかっているつもりだが、それでもやはり、残念ながら蝉はうるさい……。





一行の遥か前方で繰り広げられる会話に、段々、気温が上昇してきた気がする真夏の午後。
普段仲の悪い若松と青峰がああやって二人並んで話をしているのは珍しい。話の内容は、今時小学生男子でもしないような話だが。
なぜ蝉の話題だけでそう熱くなれるんだ。暑い暑いって、一人騒いでるお前の方が暑苦しいわ、若松。諏佐は内心そうツッコミながらマネージャーの桃井に問いかけた。

「そういえば、何か熱心にここら辺のこと調べてたな桃井」

何か問題でもあるのか?と意味を込めて聞けば、ちょっと噂が気になってと桃井は躊躇ったように話し始めた。
どうやらここ、出るらしい。

「……出るって、」
「幽霊屋敷って場所があるらしいんです。この森のどこかに」
「いやでも…噂だろ?」

まあ。確かに、真夏のオカルト話にはもってこいの題材だ。青峰はどうか知らないが、若松や桜井は面白い具合にビビるんじゃないだろうか。やっぱり女はこういう手の話が好きなのか。
そう言えば俺はそういう話には触れてこなかったな。
なぜだろうと、そう思い首をかしげた諏佐に、ふと立ち止まった今吉が振り返り言った。

「それこの時期に目撃談が多いやつやろ?」
「あ、そうです。今吉先輩もご存知なんですか?」
「ご存知も何も…」

ごにょごにょと珍しく言葉を濁した今吉は、とにかく、と仕切り直すように再度口を開いた。

「あんまそういうのに関わるのは止めり。ほんまに頼むから大人しくバスケだけしとってや」

ああそうだ。いつもこいつが、それとなく止めてたんだ。後生だからと後輩に体裁も何もなく頼み込む今吉を、俺はそれとなく見る。
今吉翔一。列記とした、桐皇男子バスケ部の主将である。
普段は、中学の時の後輩に妖怪サトリなんて言われるほどで、人の嫌がることをさせたら随一…というのが外からの評価な男だ。基本的には、あまり人に頭を下げるようなことはしない。目的のために手段は選ばなかったりはするが。

「××山はただでさえ場所が悪いんやから…」
「え?」
「何もあらへんわ。とにかく。今まで通りいたかったら、ほんまもんには手ェ出さんときや」

は〜瞳子ちゃんおったしビンゴや〜〜なんて、悲嘆を含んだような声色で嘆きながら歩く今吉を前方に見送り、俺と桃井はその意味を理解できずにいるままだった。

|
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -