静かだった。遠くで生徒の話し声が聞こえるくらい、耳に、キーンと音がした気がするくらい、その部屋は静かだった。

「……これは」
『検閲に引っかかって返せていなかった残りの遺品だよ。…随分と、時間がかかってしまって、大変、申し訳ありませんでした』

さくらちゃんに小さな木箱を手渡し、その場で深く頭を下げる。さくらちゃんは少しの間を置いて、顔を上げてくださいと困ったように笑った。
その顔さえ、あいつにそっくりな気がして胸が痛んだ。…ような、気がする。
巨人を倒す。ただそれだけが目的の、人類の盾となり刃となり、巨人と戦うだけの兵士に心はいらないのだ。胸など、傷んではいけないのだ。

昔、キース教官に教わったことを思い出し、一度、ぎゅっと目を閉じた。

『…それと、』

心を決め、さくらちゃんに断ってからその木箱の蓋を取る。決して多くはない量の遺品の数々から、一つのペンダントを中から取り出した。
無機質な色のそれをさくらちゃんの手のひらの上に置き、包ませる。

『おそらく、吉野の…君のお兄さんのものと思われる、遺骨です』
「―――!」

さくらちゃんがバッとそれを凝視する。
ペンダントの部分には、特注品として作ってもらった、カプセルの形状を取った超硬化ブレード。その中に、小さな小さな、吉野のどこの部分ともわからない骨が入っている。
いや、正しく言うのなら、これが厳密には吉野の骨ともわからない。それでも、私だけでなく、私達はこれを彼女に渡したかったのだ。

「一体、どうやって…」
『焼いたあと、場所と東洋人の特徴を持ったものを探した。あの日あの場にいた東洋人は、私と吉野ぐらいだから、おそらく間違いはないよ』
「お兄ちゃんの…。これが、お兄ちゃん…なんですね」

ただ頷くことしかできなかった。

吉野は生前から、それはもう周りが口を揃えていうほどのシスコンだった。壁の中へと置いてきた妹とその家庭環境を案じていたことからも、その妹の溺愛具合は伺えるだろう。
吉野のルームメイトであったフリーレンからは、よく愚痴混じりに聞かされていた。あいつは妹の写真に語りかけたり、妹へ毎日手紙を書いていて気持ち悪いと。
気持ちは分からないでもなかったが、私は一人っ子だったからその気持ちがよくわからない面があった。兄妹はそういうものなんじゃないか、といったら、俺の家はそうではなかった、東洋人はみんなああなのか?とやけに冷めた目で問われたので、んなわけねーだろと急所を蹴り飛ばした覚えがある。

とにかく、吉野はそれほど妹を愛していたのだ。それはきっと、さくらちゃんも一緒なのだろう。

「…千尋さん」
『はい』
「…お兄ちゃんは……私の兄は、何で兵士になんて、なったんでしょう」
『……』
「なんで、調査兵団に、入ってしまったんでしょうか…」

声も上げずにぽろぽろと大粒の涙を流すさくらちゃんに、その問い掛けに、私が答えられることなど、あるはずもなかった。






「兄の遺骨」



 



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