第101期生。訓練兵団を修了した私達の最初の戦い、―――所謂初陣と呼ばれるものは、過去最悪だったと、後にあの人は語った。

「調査兵団はまだか!?」
「まだです!運悪く遠方に出てしまっているらしく……」
「くそ…っ、どうすりゃいいんだ!このままじゃ新兵共が全滅するぞ?!」

大型小型関係なく、巨人が一斉に壁を破壊せんと猛突進してくる。ベテラン兵士ですら怪我人が出ている中、既に新兵は、第101期生の60%以上が巨人の餌と成り果てた危機的状況。
決して、私達が弱かった訳ではない。……と、のちに教官方は語る。
人数が足りなかった訳ではない、技術が足りなかった訳でもない、また、圧倒的に体力がなかった訳でもない。
ヒトは勝つことの難しい勝負だと思った時、群れを成す。そう、我々人類の中の精鋭、調査兵団の抜けた中、圧倒的に足りなかったのは経験を持つ人間の数だった。

今でもよく思い出せる。

あの地獄と化した戦場の中。
私達の先頭を率いていた吉野は壁の上に着地すると、笑顔で口を開いた。

「いやー…随分とハードな初陣だな。吉野さん、流石にちょっと疲れたわ」

101期生の中でもトップの方にいた私達は、その時、精鋭班としてその先頭で戦っていた。
しかし気づけば10人いたはずのメンバーは半分に減っており、衣服や頬に付着した仲間の乾いた血に触れると、ぐっとした何とも言えない気持ちになる。
巨人の手の届かない高さの建物でよいしょと座り込んだ吉野に、少しの休憩とガスやブレードの補充を提案して自分も腰を下ろした。

お互い、視線は惨状の街である。

ちょうど見ていた方向の建物から、煙弾が上がった。
瞬間、それぞれ補充やらなんやらをしていたメンバーが、一斉にその方向を向く。

「紫…」

生き残っていた私と同じ女兵士のメーアが、ぽつりと呟いた。
紫の煙弾。
…詰んだな、という無情なフリーレンの声が聞こえた気がしたが、もう、誰も何も言わなかった。そんな事はわかりきっている。が、口に出したらだめな気がした。
紫の煙弾は緊急事態の意味を持つ。
人類最強のいる調査兵団は来ない、最悪の状況に改善の兆しも見えない、上からの支持も出ない、そして緊急事態。
何が起きたのかはわからない。だけれど、最悪な状況がさらに最悪になった事だけは明確だった。





「第101期、初陣」



 



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