赤く腫れぼったい目元。酷い顔、可愛い顔が台無しだ。と言えば、千尋さんだって似たようなものじゃないですか!と返され、訳もわからないままにお互い吹き出した。

「ふふっ……千尋さん、せっかくの美人な顔が台無し。もったいないです」
『どうでもいいよ、兵士だからね私は。さくらちゃんにこんな顔させちゃって……吉野に殺されるな、私』

それはいつの日かはわからない。何十年後かもしれないし、数年後かも知れないし、もしかしたら数ヵ月後とか、明日かも知れない。
でもどのみちぶっ飛ばされる運命にあることにはかわりないんだろうな。まず俺の妹泣かせやがってで一発、その後、約束破りかけたなてめえで一発。だめだまだ死ねない。
……彼女、さくらちゃんは強い。
流石吉野の妹といえばそこまでだが、それでも芯が強い女性だと思う。この辛い現実を伝えたのは昨日のことだというのに、たった一晩でこんな顔を見せる。
教官に殴られた頬など、そんな彼女の心の痛みと強さに比べたらどうってことはないはずだ。

と、なにか思い出したのか、さくらちゃんがごそごそポケットを漁ると、見つけた何かを私に握らせた。
手のひらを開く。

『……!さくらちゃん、これ』
「受け取ってください千尋さん。お兄ちゃんのこと、千尋さんに預けます」

吉野の遺骨が入ったロケット。何があっても壊れないようにと、技術員に無理を言って作ってもらった特注品だ。でもこれは妹の、肉親のさくらちゃんが持っているべきだ。
なぜそんなことを言うんだと顔を上げた。

「壁の外の話、兵団の話…みんなみんな、お兄ちゃんに聞いたことあります。千尋さん達との夢の話も」

そのひとつひとつを思い出すかのように瞼を閉じたさくらちゃんをじっと見つめる。

「……お兄ちゃんの遺品の中に、遺書がありました。千尋さんにだけは見せないようにって他の人にお願いしたって書いてあって、ちょっと笑ってしまいました」
『仲間はずれにされたみたいでちょっと残念だったよ。……兵士になった時、みんな書くんだ。もちろん、約束は守ったよ』
「ありがとうございます。…あれが千尋さんに読まれたなんて知ったら、お兄ちゃん、きっと真っ赤になっちゃう」

何か恥ずかしいことでも書いてあったんだろうか。気にはなるものの、知ることはできないため話を聞くことに徹した。

「内容は話さないのがお兄ちゃんのお願いだから。だから言えないけど……でも、これは千尋さんが持っていてください」
『さくらちゃんは、いいの?君の、お兄さんなのに』
「私はお兄ちゃんに色んなものをもらいましたから。それに、お兄ちゃんだって思うはずです」

仲間のことを見守っていたい。仲間と一緒にいたいって。私には叶えてあげられない。

少し寂しげに笑ったさくらちゃんに目を細め、恭しく受け取ったあと、その場で首に下げてみせた。
満足そうな顔をする彼女の顔が、妙に頭から離れない。

「……さて!千尋さん、時間は大丈夫ですか?もしよかったら、お兄ちゃんのこと、もっと聞かせて欲しいんですけど…」

切り替えるように頬をパンパンと叩いたさくらちゃんに若干驚き、でもその竹を割ったようなさっぱりとしたところにとても惹かれた。なるほど、吉野の妹だ。
さくらちゃんの言葉に時計に目を向ける。
時刻はまだ7時前。キース教官と時間をずらして出るために早くきたが、特に用はない。

『8時半までに職員室に行けばいいらしいからね。私は大丈夫だよ』
「よかった。朝練だけ顔を出さないといけないので、一緒に行きましょう。すぐに終わるので、お話聞かせてください」
『構わないよ』

そう返事を軽く返し、ふと思う。

『朝練って…さくらちゃん、運動部の所属なの?』
「あ、って言ってもマネージャーみたいなものなんです。練習メニューも一緒に考えたりしますけど」
『へえ…、何部なの?』

「男子テニス部です」

 





「強く凛とした彼女に、君の面影をみている」



 



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