戦わなければ勝てない。戦わなければ、死ぬ。なぜ自分が戦っているとか、どうしてだとか、考えている暇はなかったかもしれない。

―――…けど、と手元の吉野が付けていた腕章に目をやる。

自由の翼。これをつけて戦いたいと語り明かしたあの日、確かに、その時には何か理由があったはずなのだ。
吉野やフリーレンやメーアと語ったそれは、今は何だったか、思い出せないけれど。

『何で調査兵団に入って、……未だに巨人を倒し続けている、か…』

わっかんないんだよなあ…。自分のことだけど、わからない。わからなくなってしまった。
何かしらしたくてシーナを出た。それはずっと守られていることからの脱却であり、また、漠然とした"絶対大丈夫"なんていう確証のない言葉を自らが否定した結果でもあった。
その先なのだ。問題は。
両親の遺骨を受け取り、それで、何で兵士になろうと思った?国のためとか、そんなだいそれたことでないことはわかっている。
なぜ、調査兵団に?

忘れている?思い出せないだけ?…思い出したくないの?

自分の精神のクレバスにハマりそうな思考になり、やめだやめと考えるのをやめた。
いずれまた考え、そして見つけよう。吉野への謝罪というわけではないが、さくらちゃんの意思だけは尊重しようではないか。

"千尋さん達は…兄のように、死なないでください。…ぜったい"

何も考えず巨人を倒し続け、責任を、思考を放棄し、それで生き残れるか?答えは否、だ。

「…兵士の中に裏切り者がいる?どういうことだ、エルヴィン」
「見ただろう。ハンジが捕獲したはずの巨人の末路を。目撃者の話だと、どう考えても、…兵士なんだ」

何かが崩れ始めている。

「綻び始めているんだ。何か、よくないことが起こるような気がする」
「縁起でもねえこと言うなよ」
「…外れるといいねェ、その悪い予感」

今までギリギリの均衡を保っていたそれが、いよいよ、崩れようとしているのだ。

「このことは他言無用とする。…千尋、君にはお願いしたことがある」
「…おいエルヴィン」
「君にしかできないことだ。いいかな、千尋?」

『リヴァイさんが、お許しくださるのなら』

案外いいのかもしれない。と、以前のことを思い出してふと口元を緩める。

両親もいない、心を許した親友も死に、この世にいるのは醜い巨人と性根の腐りきった人間ばかり。私が生きたいと思えるそれも、わずか。
みんなみんな、死に絶えてしまえば。
だって私が大好きな人達が愛したあの世界はもうなく、この世界は残酷で醜いままなのだ。

教えてくれた、美しい世界がない。

そんな世界に甘んじて自分達も腐っていっているような人類を、なぜ庇護しなければならない?兵士をゴミのように扱う奴らを。

チッ、と舌打ちをこぼした。

『…めんどくさいったらないね。私もいっそ、巨人の口に飛び込んで……』

吉野の顔が脳裏をよぎる。
私より先に逝きやがって、なんて思いながら…冗談だよ、なんて独りごちた。

『ちゃんとさくらちゃん、守ってあげるから、さ』

この世界が終わりを迎える、その日までは。またしばらく、頑張って生きてみるよ。そういう、最期の約束だ。






「死に逝く世界での君との誓い」



 



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