手紙が来てから数週間何も起こらず平和な生活をしていた私はお昼休み、屋上に呼び出されていた。

相手は制服を見れば分かるが中等部の男の子のようだった。身長は私より少しだけ高いくらいだろうか…黒髪の優しそうなあどけない表情をした子だ。



「あの…僕は桐原奏太っていいます。いきなりですが、好きです!付き合って下さい!」



そう言って私を見つめる彼の緊張が伝わってくる。まるであの日の仗助君みたいだ…そう考えながら私は謝った。



「ごめんなさい。恋愛に興味ないの。」



そう私が言うと桐島奏太と名乗った男の子は少し涙目になりながら「そうですか」と言って俯いた。少しの沈黙が続いて私は耐えられずにその場を去ろうと背中を向けた時だった。



「ーーーすよ。」

「え?」



中等部の男の子の声が変わった気がして私は振り向いた。



「可笑しいですよ。」



息がかかる位置にその子は居た。いつの間に近づいたのか、何が可笑しいのか、色々な疑問はあるけれど桐島奏太の血走った目が私を動かせなくさせていた。

私は人を呼ぼうとしたけれど、



「ーーーっ!!」



声が出ない。
指の先までまるで凍ったように動けない。

動けなくなっている私を見て桐島奏太は話続ける。



「ああ、そう言えば最近ですよね。狗神先輩にハエがついたの。」

「!?」

「山岸由花子だけでも許せなかったんですよ僕は。だって、ずっとずっと僕だけの物だったのに…本当に邪魔だなぁ」



そう言って桐島奏太は私から少し離れる。
あの血走った目をした顔からは想像出来ないほど無邪気な笑顔をみせた。



「大丈夫ですよ。僕達に邪魔な奴は消しますから。確か名前は東方仗助でしたよね…まずはあいつから。」



そう言って桐島奏太は走り出した。彼が屋上から出た瞬間に動けるようになった私は、すかさず自分のクラスへ向かい走り出す。

どうしようとか慌てたり悩んでる暇なんてない。仗助君達が危ない…桐島奏太、手紙に書いてあったプレゼントが彼なのかはまだ分からないけど、とにかく今は仗助君達を学校から離さなきゃ…それにさっきの動けない状況。もし桐島奏太の仕業なら彼は私と同じ……


考えながら階段を走り降りていたのがいけなかった。私は勢いあまって足を踏み外し14段の高さから転げ落ちた。

ーー…痛い。どこをぶつけたのか分からないほど全身が痛くてたまらない。立てない…

周りの生徒は騒いでるだけで近寄ってもこない。いつもそうだった。ただの興味本位で私に近いて来るだけで本当の私と近づくつもりなんて無いんだもの…それが分かってからは私も人と親しくしようとは思わなかった。

でも今は少しだけ後悔してる。もし、私が少しでも人と向き合っていたなら…こんな時助けてくれたかもしれない。



「ミヤさん!?」



夢なのかもしれない霞む視界に望んでいた人影を見つけた。仗助君だ。すぐに分かった。


私は最後の力を振り絞って口を開いた。



「お願い…私を学校から連れ出して…」



暗くなっていく視界の中、私は願っていた。

神様…居るならどうか
私の友人達を救ってください。








ーー。

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