見廻組土方3

「あの」

「何でしょう」

「俺は巡回とかしなくていいんですか」


ずっと室内で居続けた土方。周りがいそいそと仕事をしている中、信女と手合わせしかしていない土方は佐々木に尋ねた。
佐々木は少し考えるそぶりを見せて、口を開いた。


「行きたいですか?」

「え?」

「巡回をしたいですかと聞いているんです」

「あ、俺だけ仕事しないのもあれだし。巡回は、外を見回るだけですよね」

「ええそうです。貴方が行くというなら信女もつけましょう」

「車で、ですか?」

「外の空気を吸いたいのなら、別に徒歩でも構いません。そのかわり、帰宅は早めにお願いしますよ」

「わかりました」


外に出すという行為は土方の知人と会わす確率を高めるということ。面倒ごとになるのは目に見えてわかっている。なのに佐々木は土方を外に出すことを許した。それは何故か。今の土方より、あの好戦的な彼が佐々木には懐かしいのだろうか。だからわざと徒歩で外に出すように仕向けたのだろうか。ただし信女は一緒だ。その部分はまだ土方にいて欲しいという無意識の現れなのかもしれない。
佐々木に一礼して信女の元に走って行く土方。佐々木もまた土方に背を向けて歩き出した。



**



「信女!」

「あ、土方さん」

「一緒に巡回行くぞ」

「巡回……?」


信女は暗殺が得意分野だ。だから巡回とかそういう類のものは入隊してからこのかたしたことがなかった。でも土方が信女を誘うということは、佐々木にはお許しを貰ったのだと解釈する。
佐々木が土方を手放したいのか懐に収めておきたいのか、信女にはよくわからなかった。自分のところに置いておきたいのなら、わざわざ巡回なんてさせなくていいのにと信女は思った。でも、土方が行くというのなら行こうと思う。信女は刀を腰にさして立ち上がった。

土方にとって、見るもの全てが初めてのものだった。記憶を無くしているから当たり前であるが、このかぶき町の事など全く覚えていない。時折すれ違う天人に驚きながら、信女と二人で歩いていた。


「ひじかた……?」


不意に後ろから声をかけられる。信女と土方は同時に振り返った。そこには目を見開き驚きを隠せていない銀髪の男が一人。男の視線の先には土方がいる。信女は、瞬時にこの男が土方の知人であると判断した。そしてどこかで見たことのある男だとも思った。記憶を辿って名前を思い出す。一時期見廻組に協力して、佐々木と携帯でやり取りしていた坂田銀時だと。
銀時は土方の肩を激しく掴んだ。勿論記憶のない土方は銀時のことなど知るはずもなく、その瞳には純粋に疑問しか浮かんでいなかった。


「土方!お前、なんであいつらの隊服着てんだよ!」

「え、あ、あの、貴方は?」

「はぁ?何言ってんの土方」


銀時の気迫に圧されてしどろもどろに尋ねる土方。銀時はどこか拍子抜けした表情になった。誰だって今まで知り合いだった人間に急に誰だと尋ねられたら、理解の速度が追いつかなくなるだろう。それが恋人なら、尚更。


「あの、いや、だから、貴方は俺の知り合いですか…?」

「ちょっと待てよ、意味わかんねぇよ」


銀時が土方の腕を掴もうとした時、信女が土方の隊服の裾を引っ張った。それに気付いた土方は、掴まれそうになった腕を自然に避けて銀時に背を向けた。綺麗に避けられた銀時は、行き場のなくした手を引っ込める。それから何ともいえない瞳を土方に向けた。


「すまねぇ、急いでるんだ」


そう銀時に謝って、土方は信女と一緒に歩き出した。未だにこの状況が理解できていない銀時は、土方を老いかける事ができなかった。いつもの黒隊服ではなく、白い隊服を着た土方。信女に見せていたあの表情は、本来なら近藤や沖田に向けられるものではなかったか。
何が起きて今の状況を引き出しているのかはわからない。だが行方不明となっていた土方の消息は掴めた。そして見廻組が一枚噛んでいる事も。銀時は一目散に屯所へと駆け出した。



**



巡回から帰って、土方は何やらずっと考えこんでいるようだった。信女がポンテリングをあげても、食べるスピードはいつもより遅い。原因はわかっている、先程出くわしてしまった坂田銀時だ。


「気になるの、坂田銀時の事が」

「え?」

「銀髪の名前」

「……ああ」


銀髪、と言われてやっと誰のことを言われているのか合点がいった。
確かに土方は銀時の事が気になっていた。あの口ぶりじゃ、土方のことは知っているようだった。佐々木に早く帰って来いと言われていたこともあり、随分と素っ気ない態度になっていたことを心配していたのだ。


「あいつと俺の関係って、どんなのかわかるか?」

「知らない」

「そっか」


即答した信女に苦笑する土方。何故か頭の中から離れてくれない銀髪の男の姿。何か忘れてはいけない大切な事を忘れている気がする。といっても、全て忘れてしまっているので大切もなにもないのだが。


「坂田銀時、か」


呟く土方に信女は無言で床に視線を向けた。



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今からテスト勉強やるんだ死亡フラグ
2012/02/23 00:14
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