見廻組土方2

土方の回復力は相当なものだった。一日目はまだベッドから降りられなかったものの、二日目には歩き回れるくらいには復活した。そして今日、三日目にいたる。いつも全身黒ずくめの男が白を基調とした見廻組の隊服を着ている、なんだか新鮮な光景だった。
思わず見つめてしまっていた佐々木の視線に気付いた土方が、また控えめに佐々木の方に視線をよこす。


「似合ってませんか?」

「何を今更。貴方はずっとその服を着てきたんですから、似合う似合わないの問題ではないでしょう」

「……ですよね」

「貴方はもっと堂々としていた方がいい」

「え?」

「他人に遠慮しているなんて、らしくないですよ」


そこまで言って何を口走っているんだと佐々木は我に返った。あまりにも違いすぎる土方に、気付かぬ間に元の土方と照らし合わせていたのだ。事実今の土方にはあの鋭い眼光は見当たらない。それに随分と物腰も柔らかくなった。まるで顔と声だけ一緒で、中身は別の人間が入っている感覚。
土方は隊服が自分にしっくり来ないのか、しきりに鏡を眺めていた。本来なら黒い隊服を着ている土方だから、しっくり来ないのは当たり前だろう。

この茶番はいつまで続くのか。それは土方の記憶が戻るまでなのか、真選組が迎えに来るまでなのか。もし土方が真選組が迎えに来てもここに残ると言った場合、置いておくのも悪くはないと佐々木は思っている。何故だか知らないが、信女は随分と土方に懐いているから。しばらくはこの異質な光景を眺めるのも悪くはないと思った。


「ポンテリング、食べる?」

「ああ、じゃあ今から買いに行くか?」

「もう買ってきた」


そう言ってポンテリングが大量に入った箱を土方の前に差し出す。土方は行動の早い信女を見て、軽く笑いながら箱を受け取った。きっと土方には、信女が早くポンテリングを食べたかったか、自分の為に買ってきてくれたと解釈しているだろう。だが佐々木には、信女はどこか土方を外に出したくない風に思えた。
外にでれば記憶が戻る確率が高まるし、どこで真選組に会うかわからない。それに実質土方が行方不明になってからもう三日。真選組は今頃大騒ぎだろう。あそこの若い剣士は、自分を斬るくらいするかもしれないと苦笑した。


「土方さん、食べ終わったら信女と手合わせしてください」

「手合わせ?」

「刀のですよ。貴方は戦力になりますからね。感覚だけでも思い出してください。頭が忘れても、身体は覚えているものです」


佐々木はそう言って二人を残し一人部屋を出て行った。その時、ポケットの中に入っている携帯が鳴った。通話ボタンを押すと、今真選組の様子を張らせている隊士からだった。予想通り、真選組は総出で土方を探しているらしい。あと、気になる事が一つ。


「銀髪の男……?」


銀髪の男も、必死になって土方を探しているらしい。佐々木の思い当たる銀髪と言えば、あの一件で随分と世話になった男、坂田銀時だけだった。
銀時と土方がどういう関係なのかは知らない。少なくとも佐々木には、そこまで仲が良いようにも見えなかった。だから銀時が土方を探す理由が見つからなかった。




**




信女と土方は、広い部屋で手合わせをしていた。刀を握ったときに身体を駆け抜けた刺激に、土方は記憶をなくす前もこうやって刀を握っていたんだと改めて思った。


「なんか、懐かしい感覚がする。いつもこうやって手合わせしてたのか?」

「……」


その問いに、信女は何も答えなかった。それはきっと、信女との思い出ではなく真選組の茶髪の青年との思い出だからだ。
たどたどしいながらも、みるみるうちに元の感覚を取り戻しつつある土方。そんな土方を見て、信女は刀を振るう手を止めた。


「一緒に、ポンテリング食べる約束」


刀を片手に持ち替えて、小指を差し出す信女に土方は迷うことなく己の手も差し出した。


「こんなことしなくても、大丈夫なのに」

「……今日だけじゃない、これからもずっと」

「ああ、約束する」


そう言って笑う土方。だが信女にはわかっていた、この約束が何の意味も持たないことを。時間が経てば必ず土方は自分達の元を去って行くということを。
だけど今だけは、土方を独り占めしてもいいかなと思い、思いきり土方に抱き着いた。




―――
あれなんか土ノブ/^p^\
なんていうか、お父さんと娘的な
恋愛感情はないです
2012/02/22 01:35
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