見廻組土方

※銀土前提ですけどメインは佐々木→土方です



たまたま通り掛かった道に落ちていたもの……いや、人間と言ったほうが正しい。黒い隊服を乱し、身体のあちこちに傷が見える。壁に背を預けて静かに目を閉じていた。
その人間を見付けた男――佐々木異三郎はその人間の顔と名を思い出し眉間にシワをよせた。真選組副長土方十四郎、それがその人間の名だ。





初めは放置しておこうと思った。だが、真選組の平隊士を助けるのと副長を助けるのとでは感謝のされようが違う。後で真選組には何か見廻組の利益になるようなことをしてもらうのもいいと思い、佐々木は土方を拾って帰ることにしたのだ。

一応身体の傷の治療は終わった。土方が横たわっているベッドの横に、佐々木と信女は座っていた。信女は土方に興味などなさそうで、佐々木が持ってきたポンテリングを頬張っている。
佐々木はまだ目覚めることのない土方を見ていた。綺麗な顔にたくさんの傷をつけて、一人であの場に倒れていた。エリートには考えがたい行動。一人で敵地に乗り込んだのか、それとも不意をつかれて襲われたのか。少なくとも佐々木は土方のことを、そこらの攘夷浪士に負けるほど弱くなかったと記憶している。ならば一体誰にやられたのか。そこまで考えて佐々木は思考を停止させた。土方を襲った奴のことを考えたって見廻組にはなんの得にもなりやしない。ましてや考えてやる義理もないのだ。
佐々木はまだ隣でポンテリングを頬張っている信女に視線を向けた。相変わらずポンテリングが好きなようだ。今も夢中になっていて、どうやらポンテリングしか見えていないらしい。
だが、信女の視線が不意に土方の方に向いた。何かと思って佐々木も土方の方に向き直れば、そこにはうっすらと目を開けている土方がいた。


「お目覚めですか?土方さん」

「………」


土方はゆっくりした動作で視線を佐々木の方に向けた。視線と視線がぶつかり合う。だが、佐々木を何とも言えない違和感が突然襲った。ぼんやりとした目をこちらに向けてくる土方。佐々木はこんな目の土方を知らないのだ。いつも敵意向きだしで、まっすぐな目を向ける土方しか知らない。それにいつもの土方なら、佐々木が目の前にいる時点で睨んでくるだろう。


「土方さん?」


反応のない土方にもう一度佐々木は呼び掛ける。そして土方が口を開いて何か答えようとした時、それより早く信女の手が土方の前に差し出された。


「ポンテリング、どうぞ」

「あ……ありがとう」


まだ残っていた一個を土方は信女から受け取った。寝ていた身体を起こしてポンテリングを一口頬張る。その様子をじーっと見ていた信女の視線に気付き、土方は軽く笑って答えた。


「美味しいよ」


すると信女は満足そうな表情をして、また自分のポンテリングを食べ始めた。
何かおかしいと、佐々木は感じた。土方という男は、いくら女からでも簡単に貰った物を口にする男だっただろうか。それに相手は見廻組だ、睨むか怒鳴るかぐらいするだろうと。ただポンテリングをゆっくり頬張る土方を、佐々木は見ているだけだった。


「あの」

「何でしょう」

「貴方はいったい…」


控えめに聞いてくる土方を見て、佐々木の頭に先程から感じていた違和感の正体が導き出された。


「私は見廻組局長、佐々木異三郎です。お忘れになられたんですか?土方さん」

「あ、え、あの、土方っていうのは俺のこと、ですよね」

「ええ、貴方以外に誰がいるんですか」


その言葉で佐々木の出した結論は確信に変わった。土方十四郎は記憶喪失。これ以外に考えられる答えはありはしないだろう。
このまま土方を真選組に返すのは面白くないと佐々木は思った。調度見廻組には副長がいない、さらに土方は記憶喪失で真選組の事もましてや自分の事も覚えていないのだ。


「何も思いだせなくて」

「きっとこの怪我が原因でしょう。すぐに思い出しますよ」

「あの、俺はいったい」

「貴方は私共見廻組の副長、土方十四郎というんですよ」

「俺が、副長?」

「ええ、今は急がずゆっくり思い出して下さいね」


何の疑いもなく佐々木の言葉を信じた土方に、面白くなりそうだと心の中で笑った。





――――
佐→土ってマイナーですかね
好きな人は好きなんですかね
自給自足もぐもぐ

2012/02/21 18:01
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