胸に残る一番星 | ナノ

  手紙がつなぐもの


 ダーハルーネで働く妹に手紙を渡してほしい、という依頼をこなし、その妹―ディアナからの手紙を兄―アポロに届けると、たいそう感謝された。見知らぬオレたち兄妹のためにわざわざ足を運んでくれて本当にありがとう。こちらが恐縮するほどに頭を下げられた。

 遠く離れていても、手紙によって思いを伝えられる。受け取れる。イレブンにもその経験がある。今にも破れそうなぐらいボロボロになった、産みの母からの手紙。数年前に亡くなった祖父からの手紙。時を超えて自分に伝えようとしてくれたことをイレブンなりに大切にしたいと思い、今がある。

 あの兄妹も、互いからの手紙が支えになるかもしれない。その手助けが出来たなら、嬉しい。
 ダーハルーネまでルーラで飛んで、そこから再び町長の家へ向かう最中にそんなことをカミュに話していた。

「でも、どうして仕事辞めたこと隠してるんだろうね…」
「さあな…何か事情があるんだろ」

 家庭環境がひどかったから妹には好きなことをさせたい、というアポロと、その好きなこと≠フはずのパティシエを辞めて別の仕事についているディアナ。何故だろうとふしぎに思っても、「他人が突っ込むのも野暮ってもんだぜ」とカミュはそっけない。

 そんな相棒のことも、イレブンは気にかかっていた。

 大通りに構える露店の商人たちから、コンテストに出るならうちの商品買っていかないか、とまだ準備中のようなのによく声がかかる。それらを断ったり時には無視したりしながら進む横顔は、先ほどからどことなく元気がない…ように見える。

 あの兄妹の話を黙って聞いていたときの神妙な面持ち。「いい兄ちゃんだな」と呟いていた小さな声。時おり、ベロニカとセーニャの姉妹に向けているようなまなざし。

 …薄々と、あの面倒見の良さからいっても、カミュには下のきょうだいがいるのではないか、と感づいている。しかし彼は家族のことも故郷のことも何も話してはくれないし、イレブンも聞けずにいるので本当のところはわからない。余計な詮索はなしだ、とデルカダールの神殿で言われているのだから、聞けるはずはない。…いいや、そんなのは言い訳だろう。

 イレブン〈勇者〉を助けるのは預言があったから、と確か最初に言っていたけれど、ならばなぜその預言に従うのか、それも不明なまま。もしもむりやりにでも知ってしまおうとすれば、こうして隣を歩くこともなくなるんじゃないか、と密かに恐れていた。

 寄りかかりたいわけではない。守られてばかりいられない。けれどカミュから与えられる安堵と勇気はイレブンにとって計り知れないものだ。それらを有り難いと思ってるいるからこそ、もらった分だけ返したい。君が苦しいときは助けたい。何に苦しんでいるのか知りたい。…でも何も言ってくれない君に、僕は何が出来るんだろう。何度でも考える。

 遠くにいる家族とつなぐものが手紙ならば、こんなに近くにいる他者とつながるために必要なものは、何だろう。

「なあに落ち込んでんだよ」
 歩きながら肩に腕を回された。知らず俯いていたイレブンの顔を、海より深い青が覗き込む。

「あの娘だって言ってたろ、時が来れば話すって。…何隠してるかはわかんねえけど、あの兄ちゃんなら受け止めるだろ」

 だからお前が気にすることはない、と言われ、あああの兄妹のことを気にしていると思われているのか、と気づく。けれどまるでそれは自分たちのことを指しているかのようで。

 時が来れば、カミュも話してくれるのだろうか。ならばそれを待つことが、君に対する精一杯の誠意か。

「…そうだね」

 海から流れ込んでくるぬるい潮風を吸い込む。カミュはもういつも調子で、んじゃ次こそ町長の家に行こうぜと先を促した。





190305

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