胸に残る一番星 | ナノ

  出来ますように


 変わり果てた故郷を見て以来、眠ることが怖くなった。自分のせいでみんなが、罪悪感、ごめんなさい、ごめんなさい、自責の念、これからどうなっていくんだろう、緊張と不安。そうして目をつぶればまぶたの裏にこびりついてしまった悪夢のような光景が浮かんで、イレブンを少しも安眠させてくれなかった。

 そんなときは決まって、カミュがお茶をいれてくれた。ゆめみの花を煎じたものらしい。魔物にもてき面だが人間相手にもバッチリ効くんだぜ、と教えてくれた君も、眠れぬ夜を過ごしたことがあるんだろうか。正直おいしくはない熱い液体を腹に入れ、おやすみと降りかかる声があってイレブンはようやく眠ることができた。



 起きたら見慣れない造りの天井が目に入った。どこだここ、ああそうだ、昨夜はこの里についてすぐに倒れちゃったんだっけ。あのお茶を飲むまでもなく眠りについたが、久々に悪夢を見なかった気がする。

 肩まできっちりとかけられた毛布をずらして起き上がり、軽く体を動かした。うん、昨日のようなふらつきはない。まだ少し体の節々は痛むが、快調だ。寝苦しさはあったものの、いつの間にかぐっすりと眠っていたおかげかもしれない。それからきっと、自分を看病してくれたひとがいたからだろう。

 しかしそのひとの姿はこの部屋内に見当たらない。彼と出会ってからほとんどずっと一緒にいたせいか、目に入る範囲にいないと落ち着かないとさえ感じる。荷物は置かれているから遠くへは行っていないはず、だが。

「…だめだなあ」

 思い返すは鬼気迫る顔で追っかけてきたデルカダールの兵士たち。差し出された左手。また彼―カミュに、助けてもらってしまった。更には倒れた自分を看病までしてもらった。カミュとて疲れていないわけはないだろうに。どうにも情けなくて歯がゆくてイレブンは自分が恥ずかしい。恥ずかしい呪いなんかよりもずっと。

 僕にも出来ることはないかな。
 レッドオーブ以外にもカミュに目的があるのならば、その手助けは出来ないものか。勇者としてではなく、一個人として、思う。

 ふと、いいにおいが鼻を掠めた。竹で出来た扉が開き、トレーを持ったそのひとが現れた。

「お、起きてるな」
「…カミュ」
「メシ持ってきたけど、食えそうか?」

 頷けば毛布の上にトレーを置かれた。湯気だったそれらは見たことのない料理だったがおいしそうで、途端にお腹が減る。

「これ、なんだろ」
「オニギリってやつらしいぜ。ここの主食らしい。そっちは温泉であっためたたまごで、そっちはミソ汁? って言ってたな。さっき食べてみたがまあいけたぜ」
「カミュは食べたの?」
「オレは先に済ましたからあとはお前のだ」
「わかった。…いただきます」

 とりあえず白く三角形のそれを頬張ってみると、ほかほかとあたたかい。中に入っているのはほぐした魚の身だろうか。茶色いスープの方は味が濃く、このオニギリとまた合っている。たまごもしっかりと味付けされていておいしい。あっという間に完食してしまった。カミュが安堵したようにからからと笑う。

「体調はよくなったみたいだな?」
「うん、もう大丈夫。でもちょっと、足りないかも…」
「はは、じゃあどっか食べに行くか? その前にそれ片づけてくるな」
「あっ…カミュ、」
「ん?」

 トレーを持って立ち上がるカミュを引き留める。ついご飯に気を取られたが、伝え足りないことは山ほどあって、でも何と言ったらいいかわからない。ただ礼を告げることしか今のイレブンにはできない。

「あの…ありがとう。面倒かけて、ごめんね」
「…別に気にすんなよ。色々あったしな」
「気にするよ。昨日も助けてくれて…ほんとに、ありがとう」
「…お前のじいさんがくれた石がなけりゃ、今度はあそこの崖から飛び降りなきゃいけないとこだったしな。助かったのはお互い様さ」

 それより今後のことを考えようぜ、とこの話を打ち切るようにカミュは言う。確かに振り返ってばかりもいられないし、言葉よりも行動で返したい。…返させてくれるかな、この人は。彼が同行してくれるうちには、出来ますように。



190113

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