胸に残る一番星 | ナノ

  Good morning, Buddy!


 たまには僕に起こさせてほしい!

 と昨晩言われたもののすでに十分なくらいに休養はとっていたし、もともと眠りが浅い習慣がついているカミュは、いつもと同じようにハッと目を覚ましてしまった。心配性な勇者さまよりも先に。

 今起きたら、隣のベッドですやすやしているイレブンは少し拗ねるかもしれない。しかし昨日休んだぶん、多少体を動かして調子を取り戻しておきたい。

 はてさてどうしたものか、と考えているうちに、穏やかな寝息の音が変わった。恐らくイレブンが起きたのだろう。しかたない、起こされたフリでもするか、とカミュは狸寝入りすることにした。そんな必要はあるか?だってあんな風に、君のことが心配なんだとまっすぐに見つめられてしまってはしかたないのだ、きっと、たぶん。

「ん〜〜……カミュ、おはよ……あっ、…そうだった…」

 ついいつものように挨拶してくるイレブンにフッと笑いそうになった。お前が起こしたいって言ったんだから、さっさと起こしてくれよな。それからすっかり体調は戻ったから、もう大丈夫だと伝えたい。というか昨日ぐったりしていた自分のことはすみやかに忘れてほしい。…と、思っていたのに。

 イレブンが起き上がり、こちらに近づいてきた気配は感じたのに、どうしてだかなかなか声をかけてこない。

「……どうしよう」

 何て小さな呟きが耳に入って、こちらがどうしようである。何だ何があったんだ。

 イレブンがそっとカミュの肩に触れる。が、すぐ離れた。もごもごと何かを言いかけては噤んでいる。

 そういえば、共に旅をするようになって幾ばくか経つが、こうしてカミュがイレブンに起こされるのは初めてではないか。…もしかしてこいつは、どう起こしたらいいかわからなくて戸惑っているのか…?

 再び肩に触れられる。耳元に近づかれる気配。それからまた小さな声で、「……ザメハ」と聞こえて、カミュはとうとう耐えられなくなった。

「…く、ははっ」
「…えっ!? か、かみゅ…?」
「…おまえ、何で使えない呪文で起こそうとするんだよ…」
「…え、え、もしかしてカミュ起きてたの…?」

 まあな、と返せば、イレブンが脱力したように項垂れた。カミュは笑うのをやめて起き上がり、「それで?」と問いかける。たかがオレを起こすのに何でそんな時間かかってんだよ、と。

「今さら緊張する理由もないだろ」
「緊張っていうか…何かどうやって起こそうかなって悩んじゃって…カミュの寝顔見てたら、もっと寝させてあげたいなーとか、思うし…」
「だからって、何でザメハなんだ」
「……あれはちょっと言ってみただけデス」

 叱られた子どものようにしゅんとしているイレブンがおかしくて、また込み上げてくるものがある。肩を揺さぶるとか、大声をかけるとか、顔を軽く叩くとか、そんなことでいいのに、何を気を遣う必要があるのだろう。しかしカミュとて特に必要ない狸寝入りなどしていたのだから、似たようなものなのかもしれない。それに、昨日ぐるぐるしていたようには、ふしぎと苦しくなかった。

 寝起きでもサラサラを保っているその髪を、くしゃっと撫でる。

「ありがとな。ばっちり効いたぜ、勇者さまのザメハ」
「う…か、カミュ、からかってるでしょ…!!」
「ほんとだって」
「…ほんとに?」
「ああ」

 誰かに起こしてもらうことも、こうして気持ちよく目覚められたことも、いつぶりだろう。

「そろそろ行くか。今日は王様んとこ行くんだったよな?」
「うん。あ、カミュ、いつもより整えた方がいいかも」
「整える?」
「昨日ベロニカが言ってたから。シャンとしなさいって」
「げ、マジか。…まあ、ちっとはこぎれいにしとくか?」

 朝起きて、今日はいったい何が起こるのか予想もつかないことが、うんざりするどころか楽しみにすら思えてきたのは、さて、いつからだろう。



181111 お題「ザメハ」
190131(修正)

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