胸に残る一番星 | ナノ

  僕らアンビリーバーズ


 生意気なチビちゃんとおっとりした娘の双子姉妹。何ともちぐはぐだな、としか思っていなかったのに、勇者さまにかしづく彼女たちの眼は、あの日カミュがイレブンに感じたものと似たような光が宿っていた。疑うまでもない、彼女たち―ベロニカとセーニャは確かに、『勇者のそばにいるもの』である。自分の読み通りイレブンは勇者であり、そんな彼を自分以外に信じる者がいた。それは喜ばしいと同時に、ぞわりとした感覚があった。

 オレはあいつとともにいていいものか。

 第三者が現れたことによって浮き彫りになる己の存在。自分を信じてくれる勇者にチカラを貸そうと決意したのに、あっけなく揺れる。情けないし、格好悪い。…それほどまでに、カミュは心苦しいものがあった。隠し事をしていることが、明かせないことが、…罪を抱えていることが。

 だって勇者さまときたら、急に抱きしめてきたり、友達だと思ってたなどと言い、相棒ということばに喜んだ顔を見せ、カミュの具合を気にかけ、惜しみなく気遣ったりしてくるのだ。
 君は言わないだろうから、僕が気づけるよう頑張るね。
 その言葉もまなざしにも、カミュを脅かそうという意思はかけらも存在しないのに、だからこそカミュはたじろいでしまう。
 優しくしないでいいんだと願うこころがきっとあいつを傷つける。だからといってまっすぐに受け止めることも出来なくて、どうしたらいいのだろうか。

 蒸し暑い部屋の中、毛布の中にこもったり、冷たいシャワーを浴びたりを繰り返しながら、カミュはぐるぐるとしていた。

 
「…ただいま。カミュ、起きてる?」
 静寂だった部屋に、ドアが開く音とともに声が飛び込んできた。確認せずとも誰なのかわかる。
「…おう」
 まだ顔がみづらくて、毛布の中から返事した。体調はそれほど悪くないが、胸中の方がよろしくない。まだ、取り繕える自信がない。
 イレブンは、明かりもつけずにこちらへと寄ってくる気配を見せた。

「…あ、起きなくてもいいから! 今夜もゆっくり休んでね!」
「…お、おう」

 妙に元気な声に戸惑う。少しだけ肉や酒のにおいがするので夕食は済ませてきたのだろうが、恐らく一緒だったはずの姉妹と何かあったんだろうか。もしかして酒でも飲んだのか。

「…それでね、カミュ…明日、君が元気だったらさっきあったこと話したいなあ」
「…何だよ。言っておくがオレはもう大丈夫だぜ」
「…ほんとに?」
「ああ」

 そう言われたら気になるものだ。結局起き上がって、ベッドサイドの明かりを灯した。薄ぼんやりと周りを照らし、陽気そうなイレブンの顔も見える。こちらを気にしつつも早く話したくて仕方ないとばかりにうずうずしているのが感じ取れて、思わず笑ってしまった。

「どうした、何があったんだ」
「…あのね、」

 隣のベッドに腰掛けたイレブンの口から話されたそれは、なかなか目を見張るものだった。夕食時に、姉妹から色々と言われたらしい言葉がカミュの胸にも突き刺さる。まさかあの二人が、自分たちをそのように思っていたとは。

「それでね、僕、嬉しかったんだ」
「…嬉しかった?」

 しかしそこまでイレブンが高揚することなんだろうか、と疑問だったが、答えはすぐに明かされる。

「だって、初めて誰かから僕たちのこと、認められた気がして」
 カミュが僕のことたくさんたくさん助けてくれたんだって、だから僕も強くなりたいと思えたって、それをベロニカとセーニャが肯定してくれて、嬉しかった。

「ね、カミュ、僕たちもうふたりじゃないんだ。彼女たちに甘えるわけじゃないけど、チカラを借りてさ、進んでいこう」

 先ほど灯したランプよりも、キラキラと、パチパチと弾く光が、薄暗い部屋を、カミュを照らす。ああ、お前がこれから進んでいく道に、オレもいるのか。当たり前のように。…ならば、自分がするべきことは、やはりひとつなのだろう。

「…そうだな」
 
 
 話し終えたイレブンは満足そうにシャワーを浴びに行った。その前にもらった小袋を見ながら寝転がる。さらさらと音がするそれは、姉妹がカミュのために買ってきた薬らしい。彼女たちからも気遣われていることが、何ともむず痒い。

「…二人だったらもっと強くなれる、か…」

 イレブンが言われたらしい言葉を反芻すると、自然とベロニカの勝気な笑みが頭に浮かんだ。勇者さまと同行する元盗賊のことなどセーニャはともかくベロニカの方は認めないだろうと睨んでいたが、なかなか言うものだ。ほんと、生意気なやつ。

 よくよく考えなくとも、あの姉妹の魔力の高さは頼もしいものの、セーニャはイレブン同様にのんびりしているところがあるし、ベロニカは確かにしっかりしているが体は子どもなのである。旅をするうえでのあの三人だけでは心もとない、気がする。
 そう思いたいだけかもしれない、実際は自分がいなくともやっていけるかもしれない。これからもっと仲間が増えることがあれば、いよいよお役御免かもわからない。けれど、必要とされるうちは共に進もうか。自分も、強くなりたい。そうしていつかは、己が抱えていることを話すことが出来たなら。

 何か解決したわけでもないのに妙に胸がすく思いで、カミュは眠りについた。



190131

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