胸に残る一番星 | ナノ

  カミュは言いあぐねていた


 鼻につく焼けたにおいが漂う中、その腕を引っ張りながら。
 ゆめみの花を煎じたお茶を飲ませて、強引に眠らせたその顔を見ながら。
 ほんの気まぐれで髪を切って整えてやったときの、零れそうなひとみに見つめられながら。
 カミュは言いあぐねていた。
 
 
 デルカダールの神殿でようやく手に入れられたレッドオーブ。一年前は、あと一歩というところで逃してしまったこのお宝は、今まで盗んできたものの中でも恐らく最高峰だろう。宝珠を集め、勇者にチカラを貸す。うさんくさかっただけの預言は、実際に勇者と出会うことで一気に現実みは増し、こうして手の中で赤く輝くオーブを見ていれば、あれは真実なのだろう、と確信できた。
 こいつといれば、きっと――。

「良かったね、カミュ」
「え? あ、ああ」
「そういえばそれ、どうして欲しかったの?」

 ホイミをかけながら、ふと思い出したようにイレブンが問いかける。先の魔物との戦いはそこまで厳しくはなかったものの、回復魔法が使えるというのはやはり便利だ。礼を言いつつ、背を向けた。

「さっき言ったろ、詮索はなしだ。それよりいつ兵士が来るかもわからねえから、行くぞ」
「…うん」
「次は、お前のじいさんが言ってたほこらだな」
「……うん!」

 あの魔物が何故オーブを欲しがったのかは不明のままだが、ここに配属されていたのであろう兵士たちからの消息がなくなれば、国もそのままにはしないだろう。今にもここにやってくるかもしれない。そんな危険なところへ、理由もメリットもないのに黙ってついてきてくれたこいつは本当にお人好しだ。イレブンの現目的地であるほこらへカミュも一緒に向かうと知って、あからさまにホッとしたようなカオにどうしようもない気持ちになる。

 己のために利用しているだけかもしれない。共にいることはこいつのためにはならないかもしれない。それでも今のイレブンを一人にさせることなんて出来ないし、向かうべきところがあるならば付き合おう、と思う。

 しかし――せめて、話すべきではないか。
 己が抱えているものを。そしてイレブンの村のことを。
 
 勇者の故郷というだけで滅ぼされた村は、凄惨な光景が広がっていた。ここに留まるのはよくないが、誰かいないものかと見回った。結局破壊つくされていることしかわからなかった。
 ただ、死体や血の跡も全くなかったことを考えれば、もしかしたら村人はどこか連れて行かれただけの可能性も十分ある。それをイレブンへ伝えようとして、……止めた。
 ただの可能性だ。無駄な希望を持たせて、あいつの心を乱すだけの結果になったら? より絶望させることになってしまったら?

 けっきょくあのとき口から出てきたのは、辛くとも前へ進むしかない、そんな言葉だった。泣くなとも泣いていいとも言えず、手がかりが残された場所へと促すことしか出来なかった。
 

 なあ、勇者さま、オレには妹がいるんだ。たった一人の愛する家族だった。失ったのは、オレのせいだ。でもお前は違う、理不尽に故郷を奪われた。勇者というだけで、そんなことってあるかよ。そのうえお前は、自分の性格的にも、じいさんの手紙に書いてあったことからも、誰かを恨むことなんて出来ないのだろう。真実はどうあれこれから決して楽ではない道を行かなきゃならないお前と、ろくでもない人生を送ってきた自分。カミュが己の過去を晒せば、悲しみを分かち合えることも、今のイレブンにかけてやれることばも、もしかしたらあるかもしれない。
 けれど。
 
 カミュの口は、噤まれたままだった。




181026

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