胸に残る一番星 | ナノ

  When one door shuts, another door opens.


 久しぶりに、イレブンの笑みを浮かべた姿を見られた。神殿からほこらへと向かう最中に、海が広がっていたのだ。渓谷地帯で生まれ育ったものだから、こんなに近くで海を見るのは初めてだと言う。

「ねえカミュ、少しだけ…少しだけ、見ててもいいかな」
「…まあ、いいぜ」

 そんな場合ではもちろんないが、止めることはしなかった。気晴らしにでもなれたらいい。海にはそういう効果があることを、カミュは知っている。周りにうろちょろしているカニや貝の魔物はあっさり倒せるのに、恐る恐るといった様子で海水に触れるイレブンがおかしかった。海なんて珍しいものでもなんでもない、がカミュにとっても実に一年ぶりであるし、故郷のそれとは違って穏やかな青に思わず目を細めた。ここデルカコスタ地方に初めて訪れたときのことを思い出す。
 そういえば、あそこの船着き場に降りたような。別の地方へと行くには、ここから出る船にこっそり忍び込んで逃げるのもいいかもしれない。旅のほこら≠ェどのようなものかは知らないが、このルートも視野に入れておこう。

「兄ちゃんたち、旅人か?」
 突如かけられた声に驚く。思考にふけっていたせいで気づくのが遅れてしまった。ガタイがいい男が一人、バケツと竿を持ちながら立っている。ラフな格好と持ち物からして、あそこにある小屋に住んでいるものだろうか。

「…ああ、そうだぜ。何か用か、おっさん」
 敵意は感じられないものの、さりげなく警戒する。

「デルカダール神殿には行ったか? ここらへんで唯一の観光スポットだ」
「…いいや? 見ての通り、ツレが神殿より海に夢中だからな」
「…はっはっは! みてえだな!」

 男が豪快に笑う。それから気に入ったぜ兄ちゃんたち、魚でも食うか? などと想定外の呼びかけをしてくるものだから、面食らってしまった。掲げたバケツの中には魚がぎっしり詰まっている。

「カミュ〜〜どうしたの?」
 ようやくこちらに気付いたらしいイレブンが、波を跳ねさせながらこちらへ駆け寄ってきた。カミュがワケを説明した途端に、ぐうと鳴る音。

「どうするイレブン? …って、聞くまでもないみたいだな」
「でも、いいんですか…?」
「今日はいっぱい釣れたんだ。一人で食うのも味気ねえからな!」
「わあ…えっと、カミュは? いいと思う?」
「お前がいいなら、いいよ」

 そうして男が手慣れたように焼いた魚を、浜辺に座ってご馳走になった。見知らぬ気前のいいおっさんと、お尋ね者のオレたち。奇妙な光景だし、こんな場合ではやっぱりない、けども。食欲が戻ったように焼き魚を咀嚼しながら、おいしいねとイレブンが言うから、まあいいか、とカミュも同じくかじりついたのだった。




181027

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