がらくたみたいな心でも
「ごめんなさい……」
「お前が謝ることはないって、オレも今気づいたんだから」
しょぼくれた勇者さまを見たら、むしろ自分の方が他の面々に何をしたんだと怒られてしまいそうだ。
カミュはただ、船旅になってから手持ち無沙汰なので、溜め込んだ道具袋の中でも整理しないかとイレブンに持ちかけただけだなのに。
そうして船室でふたり、武具やら素材やらあれこれ取り出していたら、ふくろの底の底ですっかり枯れ果ててしまっていた、やくそうの束を見つけてしまい。
あーあ、やくそうってけっこう貴重なものだってのになあ、とつい口にしまえば、この相棒はたいそう凹んだわけである。
「でも、もったいないことしてしまったし……」
「最近使う機会がなかったからな、しょうがないだろ」
勇者さま、聖地ラムダからやってきた双子の妹、旅芸人、そのうえ最近仲間に加わった勇者の祖父……回復呪文の使い手であるメンバーも増えた今や、やくそうの出番はめっきり確実に減っていた。
茶色くなったそれを一枚手に取れば、途端にボロ……っと崩れ去ったが、いったいいつのものなのやら。
「……へへっ」
「カミュ? どうしたの?」
もはや回復効果など少しもなさそうな、ただの枯れ葉と化したそれを見ていたら、可笑しくなってきた。残った茎の部分を摘んだままけらけらと笑い出すカミュに、イレブンは不思議そうにこちらを見る。
「……いや、やくそうがこんな状態になったの、初めて見たなって思ってさ」
草木も生えない故郷でも、やけっぱちな一人旅でも、自分と同じく呪文が使えないデクとの旅でも、やくそうは欠かせないものだった。
旅商人に足元を見られて高値を吹っ掛けられたことだってあれば、逆に高額で売りつけたこともある。状況によっては財宝よりも価値があるこいつも、今のパーティでは形無しというわけだ。元盗賊はそんな暴落が何だか愉快で、少し切ない。
「あ、僕も初めてかも。こんなに茶色くなっちゃうんだね……」
「だな。……そういえば、デクと一緒に大量のやくそうを売り捌いたこともあったなあ」
「デクさんと?」
「ああ」
あれはどこだったろう、魔物も少ない高原でわんさか生えていたものを、デクと二人でありがたく採取して。そのときは元相棒がきちんと保管してくれたおかげで、何ら不備なく売れたのだった。
そういう意味でも、あいつは商才があったんだろうなあ。とカミュがしんみり語れば、現相棒は驚いたような、悔しそうな、何とも複雑そうな顔をした。
「やくそうって、売れるんだね……」
「そりゃ、たいていのどうぐ屋で売ってるんだから、そうだろ」
何を言ってるんだかと思ったが、そういえば自分たちは追われている身なので、あまり頻繁にはどうぐ屋を利用していなかった。そのうえイレブンは鍛治の素材もだが、やくそうなどを見つけるのも上手い(本人曰くは、そういうものが落ちているところはキラキラしているらしい。理屈はさっぱりだ)ので、さして問題もなかった。
イレブンにとってやくそうは、そのへんで適当に採取するものであり、店で売り買いするイメージはあまりなかったのかもしれない。だからこそ余ったものを売ることもせず、今の今までふくろの中で放置していたのだろう、とカミュはやっと思い至った。
「そっか……デクさんはすごいなあ。僕なんてこんな枯れさせちゃったのに……」
「……まあ、あの頃のオレとデクは二人旅だったけどよ、今はこんな大所帯だ。ものが管理しきれなくても仕方ねえよ」
「ううん、……今の話聞いたら、もっとちゃんとしなきゃなあって。僕たちがあんまり使わなくなったやくそうでも、武器でも防具でも、必要としている人はいるもんね」
そういう人たちの元に届くように、枯れさせちゃう前にどうにかしよう!
そう意気込むイレブンに、まさか自分の話からそんな結論を出すとは思ってもなかったカミュは目を丸くしたあと、――ふっと笑った。
決して宝の持ち腐れにならないように、持っているものを、もらったものを、託されたものすべてを無駄にはしないようにと、ひたむきに頑張るイレブンの姿勢は、こんなところでも現れるらしい。ほんとに、まじめなこった。
それに、初めて鍛治品を売るときはあんなおどおどしてたのに。今でもあまり、ものを売るのは得意じゃないくせに。金儲けのためではなく、人のためになるかもと思えばそうやって一念発起できるんだから、まったく。
――お前だって、十分すごいやつだよ、イレブン。
「……そんじゃ、まだ生き残ってるやつは別のふくろで保管して、今度売るか」
「うん、そうしよう」
「あと、この大量のどうぐ整理、頑張んないとな?」
「うん! ……お手伝いお願いします、相棒!」
「おう、任されたぜ、相棒!」
その後、「ふたりとも、整理整頓ならアタシも手伝うわよ〜♪」とシルビアが乱入してきたり。
「あらイレブンさまカミュさま、その枯れ葉……もしかして焼き芋でもするんでしょうか?」
「そんなわけないでしょセーニャ、ここ船の上よ」
と姉妹が揃って部屋を覗き込んできたり。
夕食の席で話を聞いたマルティナが、「お金やどうぐの管理なら、私にも出来るわよ。ロウさまが無駄遣いしないように、目を光らせたいところだし……」と美しく微笑んだり。
「ひ、姫……そんな、ひどい……」と肩を落とすロウに、みんなで苦笑いしたり。
「ありがとうマルティナ。でもあの袋、鍛治の素材もたくさんあるから、僕が頑張るよ。カミュも手伝ってくれるし」
ね? とこちらに目線をくれる勇者さまに、おうよと返したり。
賑やかなメンバーにも食卓にも少しだけ慣れてきた気がする、そんな夜だった。
240322
Clap
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