胸に残る一番星 | ナノ

  勇者のバギマ(弱)


「ギャッ」と思わずレディらしかぬ声が出たことも致し方ないだろう。ベロニカがお花摘みからキャンプ地へ戻ってきたら、半裸の男がいたのだから。

「ちょっとカミュ、何よその格好!」

 勇者お手製のマントを外してくつろぐカミュをキッと睨んでも、何も気にしてない様子がまた腹立たしい。

「乙女の前で半裸になるんじゃないわよ!」
「あ〜? 別にいいだろ、これぐらい」

 何もよくない。下は履いてるし胸当てはつけていても、マントがあるのとないのでは全然違うのだ。いくらとっくに気の知れた仲間とはいえ、ギョッとしてしまう。

「あんたには礼儀ってものがないわけ!?」
「ま、待ってベロニカ、僕が悪いんだ……!」
「え?」

 わたわた慌てながらイレブンが間に入ってきた。
 曰く、今日はまったく風が吹かないものだから、背中に汗がたまって気持ち悪がるカミュに、マントを外せばいいんじゃない? と勧めたのはイレブンらしい。

「ベロニカがそこまで怒るとは思ってなかったんだ、ごめんね……」
「……そうなの。別に、イレブンが謝ることはないと思うけど……」
「そうだぜ、お前が謝ることはないだろ」
「あんたは反省なさいよ……。とにかく、セーニャの教育にも悪いわ。あの子が戻ってくる前に戻してちょうだい」
「へえへえ、わかったよ」

 イレブンが健気に代わりに謝ったからか、セーニャの名前を出したからか、 カミュはあっさり引き下がってマントをつけ始めた。

 今日が蒸し暑いことも、カミュが暑がりなのも知ってはいるが、さすがに半裸状態は見過ごせない。……けれど、ちょっと可哀想だったかしら。

 周りを見渡しても、おじいちゃんであるロウや色々超越してるシルビアはともかく、同じ女性であるマルティナも特に騒ぐこともなくお茶を飲んでいる(そしてこちらを何やら微笑ましそうに見ている)ので、自分が気にしすぎなんだろうか。……カミュが暑さにやられても困るし、あたしのヒャドで冷やしてあげてもいいかもしれない。なんてことをベロニカが考えていると。
 
「……あ、カミュ、いいこと思いついた!」
「ん? 何だよ」

 イレブンが何を思い立ったのか、カミュの後ろに回り、そのマントの端を掴んで扇ぎ始めた。洗濯物を広げて干すときのような、ばさばさと音が鳴る。

「えいっ! バギマだよ〜」
「……ふはっ、そーんな弱っちい風じゃ、バギマって言えないんじゃないか?」
「えー? じゃあもっと強めてあげる!」
「はは、くすぐってえ」

 更に勢いをつけて、忙しなくマントを煽ぐイレブンと、背中に微風を受けてもぞもぞしながら笑うカミュ。
 ……きゃっきゃとはしゃぐ男子どもを見ていると、心配するだけ損だったような気がしてきた。まったく、何なのよ。

「お姉さま、ただいま帰りました。……あら? おふたりとも楽しそうですね」
「おかえりセーニャ。……ほんとにね」

 しかしまあ、あのふたりが仲良くしてる様は見ていて何とも気が抜けるもので、この過酷な旅においては悪いものでもないかもしれない。

 なーんて思うあたしは結局甘いのかしら。あーあ。



220326

Clap

←Prev NEXT→
top


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -