胸に残る一番星 | ナノ

  慌てん坊のサンタたち


「さっき街中で買い物してて気づいたけど、もうすぐクリスマスなのね」
「あら、もうそんな季節なの!」
「旅をしているとわからないものね」

 ベロニカの何気ない一言ににわかに場が沸き立つ一方で、セーニャが一人、ハッと何かに気づいたような顔をした。

「……た、大変ですわお姉さま……!」
「何よセーニャ」
「私たちこうして旅をしていますが……サンタさんはちゃんとプレゼントを届けられるのでしょうか……!?」

 ――そのとき勇者一行に衝撃が走る。

 シルビアが笑顔のまま固まり、ロウがスープを飲んでいた手をぴたりと止めた。じきクリスマスと聞いて、隙を見てマヤに何か贈るか、と故郷で待つ妹に思いを馳せていたカミュも、こちらに意識を引き戻された。

 おいおいマジか、まさかこの中にまだサンタを信じているやつがいるなんて!
 
 パーティの中でもピカイチ純粋なセーニャのことを考えれば、別にそれもふしぎなことではないのかもしれないが、静かに動揺が広がった。

「言われてみればそうね……テントの中じゃソックスもかけられないし……」
「今年はやはり貰えないのでしょうか……仕方のないことかもしれませんが、さびしいですね……」

 しょんぼりするセーニャに、まだわからないじゃない! と返しているベロニカに、いやお前もかよ! とカミュは内心で突っ込む。彼女の場合は妹に合わせているだけの可能性もあるが、ベロニカもまた意外なところで純真な面もあるため否定できない。
 
 さて、自分たち大人はどうするべきか。

 とりあえずあなたは喋ればボロを出しそうだから黙っていなさい、とマルティナからキツい視線をもらったグレイグは、こくりこくりと頷いた。ロウはふ〜〜む……プレゼントか……と悩ましげに己のヒゲを撫でている。シルビアはさすが、すぐに調子を取り戻した様子で大丈夫よ! と明るく声を掛けていた。

「サンタちゃんだって子どもたちのために世界中を回っているんだもの、アタシたちのことだって見つけられるはずよ!」
「そうだといいけど……」
「あの黒い太陽のこともありますし、心配です……」
「う、う〜〜ん……」

 言葉に詰まるシルビアに、がんばれおっさん、と密かに応援する。姉妹の夢、彼女らの両親が守ってきたのであろう幻想を無遠慮にぶち壊す気はないが、自分も口を挟めばボロが出そうだったので、黙って見守ることにした。

 ……そこでふと、我らが勇者さまは全然この会話に混じってこないな、とカミュは気づいた。隣にいるイレブンを見やると、どうもぼんやりとしながら、スープに浸したパンをもぐもぐと食べている。

「……大丈夫か? イレブン」
「……うん? 何が?」
「いや、何かぼーっとしてたからさ」

 こういう雰囲気のときのこいつは、多分あまり良いことを考えていない。内容まではわからなくても、それだけはわかる。

「……ああごめん、ちょっと小さい頃のこと思い出してたんだ」
「小さい頃?」
「うん。良い子にしてないとサンタさん来ないよって、よく母さんにもテオじいちゃんにも言われてたなって」
「……あー」

 定番の文句だ。自分もマヤによく言い聞かせていたものだ。というか、思ったより深刻なものではなさそうでホッとする。

 そういえばイレブンはサンタを信じているのだろうか。その口ぶりからすると違うか。ハッキリするまでは下手なことは言えないな、どっちなんだ……? とドギマギしながら返答する。

「それで、サンタはちゃんと良い子の元にやって来てたのか?」
「うん、毎年。……でも今の僕には、もうサンタさん来ないかもしれないな」

 なんてね。白い息と共に、小さく吐き出されたその言葉。真意はわからない、が何だそりゃと笑って流すわけにもいかない。むしろ世界中の誰よりも祝福をもらうべきだろう、お前は。

「……来なかったら、オレがサンタに直談判してやるよ」
「えっ……ふふっ、何それ」
「何なら盗んでくるさ、サンタのおっさんがどこにいたって」
「はははっ、プレゼントじゃなくて、サンタさんの方を? ……頼もしいなあ、カミュは」

 それじゃあ心配ないや、と笑う相棒へも、何かプレゼントを贈ろうと思った。実際サンタの首根っこを掴んでくるわけにはいかないので。マヤや姉妹の分も合わせて、何かいいものを考えねば。

 カミュ再び思案し始めたところで、いつの間に会話を聞いていたのやら、ベロニカが突っ込んできた。

「ていうかイレブン、あたしたちはギリギリだけど、あんたはもう成人してるんだから子どもじゃないでしょ」
「あっ……そうだった……」
「……何だよいいだろ、一歳くらい誤差だろ」
「なーんであんたが躍起になるのよ……」
「ね、ベロニカは何か欲しいのあるの?」
「あたし? そうね、この身体にも合うけど子どもっぽくはない素敵な服でも欲しいわね」
「「あー……」」

 それはまた、絶妙に難しいリクエストで、思わずカミュとイレブンは声が揃ってしまった。しかしこれは良いチャンスとばかりにロウも仕掛けてきた。

「……ふむ、セーニャは何か、欲しいものはあるのか?」
「はい! ダーハルーネのケーキ屋さんの、クリスマス限定特製ケーキですわ……!」
「な、なるほど……そうか……」
「ロウさま……あのお店のケーキは、確か当日限定、二〇個だったかと……」
「む、むむむ……」
「姫さまも食べたいとおっしゃってたものですね。それならばセーニャの為にも、私が買いに並びましょう!」
「ちょっとグレイグ、気持ちは嬉しいけど声は潜めて! あの子たちに聞こえちゃうでしょ!」
「す、すみません……」

 ひそひそ出来ているような出来ていないような、このままではいずれ姉妹に怪しまれてしまうと判断したシルビアが、ぱちんと両手を鳴らした。

「……とにかく、サンタちゃんが仕事をまっとうするためにも、子どもたちのためにも、アタシたちも頑張りましょう!」
「……むりやりまとめたな、おっさん」
「シッ、カミュちゃん。この場はこれで納めるのよ。後のことは大人だけで話し合いましょう」
「おーよ」

 その日の夜のプチ騒動はひとまず幕を下ろし、勇者と姉妹が寝静まったあとに計画を練る大人たちの姿があったそうな。




お題「サンタクロース」
211226

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