胸に残る一番星 | ナノ

  交渉決裂


「僕にも、させてほしいんだ」
「……やれるか?」

 こくりと頷く。イレブンの申し出に、カミュはバカにすることはなかった。心配の色を浮かべつつも、イレブンが挑戦したいことを止めたりしない。彼はそういうひとだった。

「……わかった。それならまずはオレと練習しようぜ」

 そんなわけで夕餉後のテントの中、道具やら装備品やら入れた袋を広げた。



 仲間が増えるのはうれしいことだ。しかし当然ながら、人の数だけ荷物も増えるし、旅が続けばいらないものも増えていく。そうして使わなくなった道具は行商人に売っているのだが、その役割をカミュに任せきりなのがイレブンは申し訳なかった。

「慣れてるって本人が言ってるんだから、あいつに任せていいんじゃないの」とベロニカは言っていたし、カミュもそれが負担であると零したことはないけれど。
 自分にも出来ることならやりたいし、役に立ちたいのだ。
 イレブンがそう言えば、もう十分だと思うがなあと困ったように笑いながらも、こちらの思いを突っぱねたりしない彼の、相棒でありたいから。



 さて、練習だ。商人役をしてくれるカミュを前にして、何だか緊張しながら袋の中から適当にモノを取り出した。それじゃあええと、この短剣をひとつ、100Gでどうですか。

「はあ? お前が作ったものがそんな安いわけないだろ」

 ええ、逆値上げしてくる商人さんなんている? 初手から予想外の交渉決裂に戸惑っていると、シルビアがひょいと覗き込んできた。

「あらでも、イレブンちゃん製の短剣は扱いやすいんだもの。もっとお高くてもいいとアタシも思うわよ」
「わっ!」
「おっさん、いつの間に……」
「邪魔するつもりはなかったんだけど、ちょっとね」

 外で姉妹と一緒にまったりお茶していたはずなのに、いつの間にかこちらの話を聞いていたらしい。まあ彼が神出鬼没なのは今に始まったことではないし、それよりもダメ出しされてしまったことが気にかかる。

「もっと高く……うーんでも、適正な値段ってわからないなあ……」

 たまたま見つけた鍛冶レシピを元に、素材が足りていれば練習も兼ねて片っ端から作ってきた武器防具は、あまり町のお店では見かけないものも多い。参考となる値段が不明なのだ。

「そんな考えすぎないでも大丈夫よイレブンちゃん。あなたの作ったものの価値を、きちんと見定めてくれる商人ちゃんに売ればいいのよ」
「……そうだな、へたにこっちから言うよりは、向こうが買い取ってくれる値段で売るってのもいいかもな」
「なるほど……」

 それなら何とか出来るかもしれない。しかしモノをひとつ売るにしてもこんなにも頭を悩ませるものなのかと思う。鍛冶だって楽ではないにせよ、作る方がイレブンの性に合う、のかもしれない。そう零せば、「ふふ、イレブンちゃんは職人気質ねえ♪」とシルビアに微笑まれた。

「カミュちゃんはあまり鍛冶が好きじゃないのでしょう?」
「まあ、得意じゃねえな。あちいし」
「あなたたちってホント、得手不得手が正反対なのねえ」

 これからもお互いをカバーし合っていけるといいわね。そう言ってウインクをばちっとキメたシルビアは、外へと戻っていった。残された自分たちはというと、何だかちょっとくすぐったい気持ちに包まれた。

「……カミュ、僕もっと鍛冶がんばるね」
「お、おう」
「でも使わなくなったの売るのも、カミュに任せきりにしないから」
「……それじゃオレの方が、してもらってばっかりになっちまうぜ」
「そんなことないよ、素材集めしてもらってるし、むしろ君には助けてもらってばっかりなんだから、」
「あーもうわかったわかったから、この話はこれで終わりな。……オレもちょっと出てくるぜ」

 すっくと立ちあがったカミュも出て行ってしまった。相変わらずなかなか誉め言葉も感謝も受け取ってくれない相棒だ。仕方ないので、とりあえず広げていた道具を片付ける。

 そういえば結局ろくに練習できなかったし、付き合ってもらったカミュにもアドバイスをくれたシルビアにもお礼を言えずじまいだな。まあ、明日にしよう。そして彼らへの尽きない感謝は、イレブンなりの方法で返していこう。




お題『交渉決裂』
○○を使わない140字小説お題
フォロワさんへの捧げものそのAでした!
210224⇒211204(加筆)

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