胸に残る一番星 | ナノ

  柔い


「僕のおじいちゃんも母さんも、からだが大きかったんだ」

 ようやくうとうとし始めたように見えたイレブンだが、しかしそのまま眠りに落ちずにぽつりと呟いた。急にどうしたんだと思いながら、「大きい?」とカミュは咄嗟に聞き返す。

 今日は体力も精神力も大いに消耗したし、いつ追っ手が来るかもわからないので、寝られるうちに寝ておいた方がいい。けれど幼子のようなか細い声を、無視することなんて出来なかった。

「えっと……君がお世話になったって言ってた、女将さんみたいな……?」
「あー、なるほどな」

 見たこともなければ……会うことも叶わなかったイレブンの家族のすがたが、何となくは想像できた。つまりは体格がいいということだろう。がっしりよりは、ぽっちゃりめに。

「うん。だから、……かみゅみたいな細身の人にこうされるの、新鮮だなって」
「……」

 少し笑ったような、また泣き出してしまいそうな気配。実際は、どんなカオをしているかは見えないからわからない。カミュの腕の中に大人しく埋まっているイレブンは、どんな気持ちでいるのだろう。

 すっかり静まり返った夜に、毛布にくるまりながらすすり泣く彼をとても見ていられなかったから、こうして腕を伸ばした。下層の女将のようにふくよかな体つきらしい家族とは、似ても似つかない貧相なカミュなんかに抱きしめられていて、本当は嫌だったのだろうか。

「……ふくよかじゃなくてごめんな」
「えっ……どうして、謝るの。……あったかいよ、すごく」
「……そうか」

 それならよかった、と内心で安堵した。家族や故郷を突然失って、ぽっかり空いた胸のうちを、他人が埋められるわけがないことを、カミュは嫌になるくらい知っている。それでもデクだったり女将だったり、自分を助けてくれた人がいたから何とかやってこられた。オレも、お前の助けになれるだろうか。

「……ありがとう、かみゅ」
「おう。……もう寝ようぜ」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」

 預言の通り出会ったこの勇者を助けて、果たして何になろうか。動き始めた運命の先に何が待っているものか。何もわからなくても、とにかく今は、冷えたお前をあたためてやりたいと、そう思ったんだ。




お題『やわらかい』
○○を使わない140字小説お題
フォロワさんへの捧げもの@!
210224⇒211204(加筆)

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