胸に残る一番星 | ナノ

  Letter






 最初の一文はきれいな文字だったのに、飽きたのか疲れたのか、徐々に彼女の字――彼女の兄の字とそっくりだ――で書き殴られていく様子とその内容に、くすりと笑ってしまった。マヤちゃん、元気そうでよかったな。初めてのお手紙を読ませてもらったイレブンは、素直にそう思った。しかし宛名の主である彼女の兄ーカミュは、はあと頭を抱えている。

「……確かにオレは、あそこの生徒になったこともないのに、マヤのやつに適当なこと言っちまったかもな……」

 と、こんな調子で反省している。なったことないも何も、そもそも女学園だからなれないのだが。実際に通い始めたマヤからの体験談に、変にショックを受けているようだ。まったく真面目なお兄ちゃんだ。

「うーん、どうかな……あそこはいつも穏やかでぽかぽかしててさ、僕たちみんな気に入ってたじゃない。カミュもそうでしょ?」
「……まあな、いいとこだよな。生徒さんたちはのびのびしててさ」
「うん、そうだったね。どの子もいきいきしてた」

 常に春の日差しに包まれているような、ふしぎな学園。まっすぐで元気な生徒さんたちには癒されたり、この子たちの笑顔と未来を守らねばと、戦う意思を固めたりした。それは仲間たちも同じだったようで、みなあの学園を好んでいた。テーブルの向かい側で、うんうんと唸っている彼ももちろん。

「だからさ、カミュの認識が間違ってたわけじゃないと思うよ」
「……そうか?」
「……まあ、ふわふわって説明はよくなかったかもだけど……」
「ウッ……やっぱりか……」

 またカミュががくりと肩を落とす。
 とはいえマヤだって言われるがままではなく己の意思で入学したわけだし、新しい環境に身を置くということの覚悟もある程度はしていただろう。なのにカミュの説明と実際の学園生活の様子が違った、などと文句をつけるのは、じゃれあいのようなものじゃないかとイレブンは思う。
 だからカミュがこうやって落ち込むものではない、はずだ。たぶん、恐らく、文面を見る限りは。
 ……文面だけではやはり、心配が募るものかもしれない。それじゃあイレブンは何をしてあげられるだろう。

「ちゃんとやっていけるかな、あいつ」
「大丈夫だよ。マヤちゃん、何だかんだ楽しそうだもん」
「だといいけどな……」

 ふと、自分には便利な呪文があることを思い出した。彼と彼女が兄妹ふたり旅をしているときはどこにいるやらわからず、使えずにいたもの。相棒ふたり暮らししている今は、使う必要がすっかりなくなったもの。

「……ね、こっそり見に行っちゃう? いつでもルーラでひとっ飛びだよ」
「…………あ〜」
「母さんの作ったパンプキンパイを持っていったら、マヤちゃんも喜ぶんじゃないかな」
「………………いや、今はやめとく」
「そっか」

 カミュが望まないなら無理を通す気はないので、引き下がる。イレブンはただ、彼の妹と離れて寂しい気持ちも心配してしまう思いも、それらをぐっと堪えて遠くから見守ろうとする姿勢も、ぜんぶひっくるめて尊重したいのだから。

「でも、いつかは頼まれてくれるか、相棒」
「お安い御用だよ、相棒」

 そう二つ返事すれば、カミュはようやく顔を上げて、安心したような笑みを見せたのだった。





お題「ふわふわ」
211129

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