胸に残る一番星 | ナノ

  おお我らがイシの村よ


■in the twilight

「神父様、すみませんが、こちらに若者二人やってきませんでしたか?」

 兵士からの問いかけに、咄嗟に「いいえ」と答えた。ここで―この焼き滅ぼされた村でしばらく祈りを捧げていたが、誰も訪れることはなかった、と。
 すると相手はわかりました、とあっさり引き下がり、礼を言ってきた。かぶとを被っているため表情は見えないが、困ったような声音にほんの少し罪悪感が覚える。
 本当は青年二人を見かけている、それなのにどうして思わずそんなウソをついたのか、自分でもよくわからなかった。神に仕える身としても、大国デルカダールが追っている悪魔の子≠ヘ許さざる存在だろう。しかし。

「うーん、ホメロスさまが絶対この村に戻ってくるだろうって言ってたけど、外れかなあ」
「きっと村なんかどうでもよくて先に逃げたんじゃないか? なんせ悪魔の子だし」

 ……ここにやってきたあの青年が本当に悪魔の子であるならば、この惨状を見てあんな表情をしていないだろう。かたわらにいた青年だって一緒に言葉を失いながらも、そっと寄り添っていたすがたが、忘れられない。
 無慈悲にもこの村を焼き払ったデルカダールと、逃げ惑う者たち。いったいどちらが正しいのかもわからない。ただ思わず……私はあの青年二人の無事を祈ってしまったのだ。
 おお神よ、どうか彼らを導きたまえ。





■in the midnight
 
「ねえあなた、カミュさんたち、本当に大丈夫かしら」

 大樹が地に落ちてからというもの、日常の何もかもが一瞬で崩れ去っていってしまった。それでも誰かの助けを借りて、支えられ、今は砦となったこの村に身を寄せている。
 今やどんな異変が起こったって不思議ではないが、それにしてもその昔に夫が世話になったという男が記憶喪失になっているなど、予想外も甚だしい。しかし夫であるデクは、自分のことも忘れていた男に対して、さほどショックは受けていないように見えた。あまり関わり合いのないミランダの方が心配を覚えているんじゃないかと思うほど。

「大丈夫よー。アニキはね、ああ見えてとっても諦めが悪いんだから! 一緒に旅をしていたときも、どんな危機だって何やかんや乗り越えてきたのよー」
「そう……なの?」

 けれど今の彼は、デクが知る彼ではないのでは、とは軽率に言えなかった。

「そうだよー。世界が暗闇に包まれても、記憶を失っても、アニキは勇者のお兄さんといる。それがアニキのしぶとさの証拠なのよー!」

 だから大丈夫なんだとデクが笑う。ワタシたちはアニキたちを信じて待とうと。こんな世界になっても変わらない笑顔は、ミランダの心の支えのひとつだった。信じられるものがひとつでもあれば人は生きていけるのだ。夫にとってのそれは彼らなのだろう。ならば自分も一緒に信じようか。
 どうか次は笑顔で、彼らがこの村に帰ってこれますように。





■in the daybreak

 村の復興が着々と進んでいる。最近はやっと全家族分の家が建てられて、生活の基盤も整ってきた。
 デルカダールからようやく帰ってこられたときに、見るも無惨なこの村の様子にはさすがに挫けそうになったものだが、それでもみな負けずにここまでやってこれたことを、ダンは村長として誇りに思う。

「手伝えなくて、ごめん」
 とイレブンに謝られたこともあるがとんでもない、エマが頼んだ人材を各地から呼び寄せているだけでも十分である。それにイレブンには、この村だけではない、世界そのものを守らなければいけないという使命を負っているのだ。自分たちが苦労も何のそのと踏ん張れるのは、途方もない役割をこなそうと頑張っているイレブンに勇気をもらっているのも大きい。
 こちらこそ何もしてやれなくて不甲斐ない。そう思うからこそ、イレブンのそばにいつも相棒の青年や仲間たちがいることに、安堵感を覚えてしまう。

 なあテオよ、大樹から見てくれているか。お主の孫は立派な勇者になっているぞ。心強い仲間もいる。ワシがそっちに行くのは当分先になりそうだが、それまでエマとみなと一緒に、あの子が帰ってくる場所であるこの村を守りきろう。





■in the daylight

「ねえ、おじさんはカミュにいちゃんと家族なの?」

 思わず飲んでいた酒を噴き出しそうになった。彼とは顔見知りなだけで何の血のつながりもないのに、どうしてそうなった。

「だってルコやおじさんと髪の色が似てるもん」

 違うの? と娘の幼い友達が無邪気に聞いてくるものだから、今度はなるほどと笑った。確かに似てはいるがよく見たら違う青色なのだ。それに自分の家族は愛娘であるルコだけだ。……もうすぐ増えるが。

 ルパスがそう言ったにも関わらず、納得がいかなかったのか何なのか。偶然近くを通りかかった彼本人に突撃しにいっていた。少し焦ったが、彼は特に気にした様子もなく笑って答えていた。

「んんん? ああ、髪色からそう思ったのか? はは、違うぜ。オレの家族は遠くで学校に通っている妹と、それから一緒に暮らしてる相棒とその母親とじいさんだけさ」
「そうなんだー」

 あっお母さんが呼んでるからまたね、と走り去っていった彼女に、おう、と手を振る彼をついじっと見つめてしまった。

「……何だよ、おっさん」
「いや……」

 ふと、ホムラの里で初めて出会ったときのことを思い出していた。ルパスは何となく、彼は自分と同じ不運の星の元に生まれたのではないかと密かに思っていた。髪色は関係ないし、調べたわけでもなく、直感だ。真実は知らない。確かなことは、今この村で自分たち親子もそして彼も、何の危ない目に合うこともなく穏やかに過ごしているということだ。なんて幸運で、幸福だろうか。まったく勇者様へ感謝は尽きない。

「お互い、この村に越してきてよかったな」

 思ったことをそのまま口にすれば、自分と似た髪色の青年はきょとんとしたあとに、「……そうだな」と返したのだった。




お題「イシの村」
S2周年おめでとうありがとう!
210927

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