胸に残る一番星 | ナノ

  まどろむ時間


「……やっぱりここにいた」


 お昼ごはんの時間になっても同居人が散歩から帰ってこなかった。今日は何だか蒸し暑いから、ぐったりしているカミュのために冷たいかぼちゃのスープを作ったのに、あんまり遅いとぬるくなってしまう。

 入れ違いにならないといいなあと思いながら家を出て、呼びに行くことにした。行先は告げられなかったけれど、ひとつ思い当たる場所がある。元々ひんやりしていて、夏でも涼しいムンババのいる穴蔵だ。案の定そこで発見した。ムンババにもたれかかっている彼の近くに寄れば、どうやら眠っているようだった。

「ムフォ〜」
「あっ、ごめんね起こしちゃった?」
「ムフォフォ」

 じっと大人しくしていたムンババがこちらに気づいたのか、控えめに声を上げる。起さないように気遣っているらしい。元クレイモランの聖獣であり、現イシの村のマスコットであるムンババは、エサやり当番をしているカミュにすっかりなついている。デカいワンコロみたいでけっこうかわいいもんだぜ、といつだかにカミュが言っていたが、イレブンから見てもふたりの仲は微笑ましい。

 そっと隣に座って、寝顔を見つめる。いつでもかっこいい相棒の寝顔が、意外にあどけないものだというのは、同居してから知ったことのひとつだ。

「……ねえムンババ、カミュってここ好きだよねえ」
「ムフォフォ」
「君のことが好きなのもあるかもしれないけど」

 もしかしたら、故郷の洞穴を思い出して……ということもあるのかな、なんて考えがふと頭をよぎる。もしそうだとしたら、少し切なくなるけれど。すやすやと眠るその顔は、安寧そのものといった感じだから、気にしすぎなのかもしれない。
 まいにち君が、安心して眠れていたならそれでいい。

 ……ああ、何だか僕も眠たくなってきちゃったなあ……お腹は空いているし、家ではかぼちゃスープが待ってるんだけ、ど、…………

「ムフォ〜……」


 *


 ぬくいものを感じて、カミュはぼんやりと目を開ける。左には白い獣…ムンババが寄り添っていて、右肩には相棒がもたれかかってぐうぐう寝ていた。はて、イレブンはいつの間にここに来ていたのだろう。ムンババと揃って夢の中、尋ねることはできなかった。
 
 イレブンからうっすらとかぼちゃの匂いがする。昼飯ができて、自分を呼びに来たところで、一緒に眠ってしまったといったところか。そういえば腹が減ったな。しかし。

 涼しさを求めてこの穴蔵に来たのに、ふたりのぬくもりがほどよく心地よくて、また眠気に誘われる。イレブンの穏やかな寝息に、ラリホーでもされたみたいだ。

 ああ、すっかりだらだらした生活が染みついちまったなあと思いながら、カミュは再び目を閉じた。




お題「暑い」+「まどろむ時間」
○○を使わない140字小説お題
210210⇒0823(加筆)

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