ひとつの記録
「なあ、あそこの二番目の書物なんだが、あの犬になった王女はちゃんと元に戻るのか?」
突然勇者サマの相棒に呼び止められて、思わずドギマギしたらそんなことを聞かれた。なんだ、そんなことか。
「もちろん、あの世界の勇者サマによって助かるッチ!」
悪しき者に姿を変えられた王女は、勇者たちが手に入れた真実を映す鏡によって元に戻り、以後仲間になるのが正史である。クルッチがそう胸張って答えれば、ホッとした様子だった。
「いやあいつが気にしてたからさ、ありがとな」
「どうしたしましてッチ!」
礼を言って神殿から去っていくのを手を振って見送ったが、はて、あいつというのはイレブンのことだろうか。そういえばあの書物の世界から出てきたときは、気がかりな様子だったのをおぼろげに覚えている。だからといって本人ではなくその相棒が訊いてくるあたりが、何というか。
「クルッチ、どうしたんじゃ」
「何でもないッチ!」
これもひとつの記録―思い出―として、冒険の書に書き記しておくッチ!
お題『変身』
○○を使わない140字小説お題210131
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