酒場担当になるまで
「……あのおちびちゃんは何がご不満なのかね」
初めてたどり着いた街、目的のための情報収集をするべく皆で酒場へと向かったら、ハッキリと『お子様お断り』と門前払いされた。まあ、そうだろう。ホムラのとこが甘かっただけだ。仕方ないので自分とイレブンだけで行く、というのも自然な流れなのに、ベロニカが納得いかないとばかりにふくれっ面をしている。
「僕たちだけじゃ不安なのかな……」
「それにしたってなあ……」
と小声で話していたら、「あの、イレブンさま、カミュさま……」と同じく小声でセーニャが話しかけてきた。
「どうした?」
「……私たちがふたり旅をしていたころ、勇者さまの情報を得るために、お姉さまは臆せず情報収集へ向かわれていました」
「ああ、ホムラでもそんな感じだったな、あいつ」
「強烈だったなあ……」
魔力を奪われ不本意な形で子どもの姿になっていたのにも関わらず、はぐれたセーニャを探すために酒場の店員や門番の男にもぐいぐいいっていたのを、思い出すまでもなく覚えている。カミュの第一印象は、何だあの生意気なガキは、だったけれど、『妹』を必死に探しているのだと知れば、手を貸さないわけにはいかなかったことも。
「はい、それで……いつも、ぐずな私を引っ張ってくださって……だから、お姉さまは誰かを頼るということに、あまり慣れていないのですわ」
あの身体になったことを受け入れてはいても、イレブンさまたちに頼らざるを得ないことは、プライドに障るのでしょう。それで今むうっとしてるのかもしれませんが、どうか、怒らないでいただければ、と。
ぽつぽつと、伏し目がちに語るセーニャ。そんな申し訳なさそうにされたら、こちらの方がばつが悪くなる。というか、普段おっとりと構えているセーニャが、姉のベロニカのことをそのように冷静に捉えているところもあるのか、と何だか感心してしまった。この双子姉妹は、互いをよく見ているし思いやってるのだと思えば、やっぱり強くは出れない。顔を合わせるとイレブンもうんと頷いた。
別にそこまで怒ってないから気にするな、とカミュが言おうとしたら、少しだけ離れたところにいたベロニカがつかつかと寄ってきた。
「ちょっとあんたたち、何話し込んでるのよ。時間がもったいないわ」
「……って何だよ、お前が不満そうだったんだろ」
「別にいいわよ、もう」
ぷい、っとそっぽ向かれて、やれやれだ。しかしまあ、こいつも変わってしまった身体についていけないところもあるんだろう。なら仕方ない。
「ね、ベロニカ」
「……なによ」
そこで、カミュよりも先にイレブンが動いた。さり気なく膝を曲げて、ベロニカと目を合わせる。
「僕たちだけじゃ頼りないかもしれないけどさ、信じて待っててほしいな」
嘘偽りなんてひとつもないように聞こえる言葉。実際ないのだろうし、これは効くな。イレブンの真っ直ぐな態度は、ひねくれてたり意地張ってる相手ほど効いちまうんだ。カミュは知っている。
ベロニカは少し面食らったように呆けて、次いで、「はあ……」とため息を零した。
「お姉さま……」
「はいはい、わかったわよ……」
「そうそう、オレたちに任せておきな。それに、酒場だけが重要な場所でもないだろ。どうぐやとか宿屋とか、できるところを分担しようぜ」
追い打ちをかけるようにカミュがそう言えば、ベロニカはやっと顔を上げ、いつもの強気な表情に戻ったのだった。
「……じゃあ、そっちは頼んだわよ!」
「うん!」
さて、あれからまた仲間も増えたものの、探しているものは虹色の枝からオーブに変わっただけで、相変わらず情報収集は欠かせない。しかし人数が増えた分、一度に調べられるところも増えたので、多少は気楽になったものだ。
「しっかしベロニカのやつも、人に任すことに慣れたもんだよな」
「ふふ、そうだね。僕たちすっかり酒場担当だもんねえ」
あたしたちは宿屋に行ってくるから、あんたたちはあっちね! なんて。仕切り屋になってきてるような気がしないでもないが、まあ、変にすねられるよりはいいか、と思う。
「……僕としては、隣にいるお兄さんも、もっと頼ってくれるようになったら嬉しいんだけどな」
「……そいつなら、けっこう頼ってると思うぜ? お前のこと」
「ほんとかなあ」
「ほんとだって」
「それならいいけど」
そんな軽口を交わしながら、今日も今日とて立ち寄った街の酒場を、イレブンと二人で覗きに行くのだ。
お題『酒場』
○○を使わない140字小説お題210130
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